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日本動物愛護協会群馬支部長  石井 文子(高崎市岩押町)




【略歴】埼玉県出身。2001年、日本動物愛護協会群馬支部を結成。同支部のアニマルランドで犬と猫の里親探しに力を入れる。また、講演会など啓発活動を積極的に行う。



真夏の散歩



◎犬だって暑さはつらい





 真夏のことだった。舗装道路でチワワの散歩をさせている女性がいた。県庁前である。遠くを見ると、かげろうがゆらめいている。それほどきびしい日差しの午後。

 女性は日傘をさしていた。彼女が前に進もうとリードを引っ張っても、チワワは嫌がって歩こうとしない。私はその女性に声をかけずにはいられなかった。「この焼けきった道路って、卵を落とせば目玉焼きができるくらい熱いのよ。犬ははだしなんだから、熱くてたまらないはずでしょう、この子もいやがっているじゃないですか」

 動物がかわいくて飼っているのでしょうから、犬の「道路が熱くて、これじゃヤケドちゃうよ」って叫びも分かってあげてほしい。そんな言い方をしたと思う。「これ以上歩くと足の裏からヤケドして化膿(かのう)して、病院に連れて行くことになりますよ」

 女性はけげんそうな顔をしていたが、それでも私がお願いしたように犬を抱きかかえてくれた。本当に分かってくれたかどうか、ちょっと不安ではあったが。

 真夏の日差しが強い時間帯に犬に散歩させている光景を、よく見かける。夏は朝晩、冬は日中。犬を散歩させる時間帯の常識だ。それに気がついていない人が多い。真夏の暑さは人間にも分かる。でも、靴をはいているから、舗装道路が焼けただれていることは意識しない。みんな一度真夏にはだしで歩いてみればよい。舗装道路が、まるで「火渡り祭り」の場のようになっていることに気がつくから。

 真夏の午後に犬を連れてスーパーマーケットに買い物にきた家族連れがいた。もちろん犬は店内は入れないので、駐車場の杭くいにつないで、人間だけクーラーのきいた店内へ。その日は、目の前がクラクラするような暑さだった。たまらなくなった私は、杭につないだリードをほどいて、犬を日陰に連れて行って、そこにあった柱にゆわえた。「ありがとう。暑かったよ」。

 犬がちょこんと頭をさげたような気がした。そのまま立ち去ったら、その家族が「犬がいなくなった」と大騒ぎになるだろうから、杭のところでその家族を待つことにした。20分、30分。両手に買い物袋をかかえて出てきた家族に訳を話すと、素直な人たちでよかった。「気がつきませんでした。ありがとう」と笑顔を見せてくれた。

 こんなことをよくするものだから、なかには「人の犬を勝手に」と怒り出す人もいる。余計なことだと、分かってはいるのだが……。





(上毛新聞 2009年6月16日掲載)