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◎知的財産権は経済資源 旅に出てすばらしい景観に出合うと心も和む。しかし、仕事柄、車窓から目に入ってくる看板やサインにはときどき気になるものがある。 JR中央線のスーパーあずさ号に乗車していたときのことだった。停車した電車からふと窓の外を見ると、ビルの屋上の塔屋サインに、何と私が制作したアイソタイプ(絵文字)がシンボルマークとして堂々と掲げられていた。 咄嗟(とつさ)に下車した。そこは私の全く知らないブライダル会社の店舗であった。カタログ、パンフレット等をもらい、サイン看板類はカメラに収め、帰社後、自分の原版と照合するとピッタリと一致するではないか。 私がデザインしたアイソタイプは、依頼主がいて現在使用されているものであるし、文部科学省検定合格の高校用美術教科書(光村図書)、「世界のマーク・シンボル」の集大成(柏書房)などにも作品として掲載されている。 先方はなぜ無断で使用したのか。尋ねてみると、「自社のシンボルマークとして、見る人を引きつけると思った」とのことであった。掲載本からの無断使用を認めたのであった。 このことは私に3つの問題点を提示した。1つ目は、このアイソタイプは、発注オーナーに対してデザインしたものであること。2つ目は、掲載本から無断で使用するという安易な制作態度。3つ目は、私に模倣したという逆の疑いがかかること。私はすぐに弁理士に依頼して、解決に至った。このような案件は自社でも既に数件起きている。 そもそも、シンボルマークは、他のものと区別するための「目印」として使用されたもので、今では企業の固有性を主張するために、造形性や視覚性を考慮した特有のデザインが施され、認知性の高いデザインになっている。 このようなデザインの保護と同時に、活用を目的とした意匠登録制度がある。この制度は1889(明治22)年2月1日に施行された「意匠条例」に始まる。 日本での商標登録は企業や商品名を表すロゴマーク、文字、図形など静止画のみである。他方、米国、英国、ドイツ、豪州などでは音声、動画、ホログラムも商標登録されている。そんな中、インターネットや携帯電話などの普及で、日本でも保護の対象を拡大する商標法改正の動きが伝えられている。このように魅力あるデザインは重要な経済資源として活用されているのである。 私たちが何げなく目にしているものも、それを生み出すために、作家、デザイナーたちは日々格闘している。私たちは著作権、意匠権、商標権という知的財産権について、もっと社会的な見識を深めることが重要なのではないだろうか。 (上毛新聞 2009年6月14日掲載) |