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キッズハウスコモック経営  石井 浩行(大泉町住吉)



【略歴】日本写真芸術専門学校卒。山岳、アウトドア雑誌の編集を経て、太田市内におもちゃ店を開店。木製を中心にぬくもりのあるおもちゃを10カ国から取り寄せている。



引っ越し用の段ボール



◎捨てずに再使用を




 先日、店を移転した。商品や新店舗で使用する什器(じゅうき)類を運び終えると、最後に残されたものが「ごみ」だった。たかだか数年使用した店舗だったが、ごみの量はたかだかではなかった。車に積み込み、処分場を数往復する必要があった。新店舗への商品や什器類の運び込みには、さらにその数倍車を往復させた。

 商品の発送作業を日常とする店として、梱包(こんぽう)ごみを減らそうと掲げた「チームマイナス6%」の目標がむなしく思えた。

 二十代の数年間、ヒマラヤ山ろくのチベット高原を歩いたことがある。そこにはヤクやヤギ、羊の放牧を営みながら暮らす遊牧民がいる。高地のため、わずかな牧草を求めて広大な地域の移動を繰り返す。

 二酸化炭素をまき散らすわれわれの引っ越しに対して、遊牧民の引っ越しはというと、数頭のヤクに家財道具一式を背負わせ、自分たちは歩いて次の牧草地を目指す。それまでテントを張っていた牧営地には何も残らない。ヤクのふんなどそのまま燃料になるため、羊やヤギのふんが少々といったところだ。彼らが移動した後、牧地は一年をかけて草地に返る。

 ある遊牧民の家族と数週間暮らした時だ。その間、彼らからはまったくごみと言えるものは見られなかった。食事は数種類の食器を上手に使いこなし、衣服は寒暖差の激しい一日でも着こなせる機能的なものを身に付けていた。鼻は手でかみ、トイレは水さえあれば用が足りる。われわれから見れば使い捨てのビニール袋ひとつも繰り返し使い、簡単に捨てることはしない。

 ぼくも一緒にいる間、なんとか同じ生活様式を試みていたつもりだったが、町に帰ったときのリュックサックの中はごみでいっぱいだった。ごみ処分場のない山奥の小さな町には、持ち帰られたものも含む小さなごみの山があちこちにできていた。そこには、使い続けるか、ごみとして捨てるかのどちらかで、リサイクルなどという中間の選択肢などなかった。

 最近、「エコ買い」といった言葉を耳にするようになった。地球環境にやさしい買い方をすることを「エコ買い」というそうだ。例えば、スーパーなどで買い物をする際、古い日付のものから購入し、廃棄することがないようにしようというものだ。

 店の引っ越しには大量の段ボールを使った。捨てればただのごみになるか、リサイクル処理されることになる。これをスタッフと話し合い、配送用の梱包材としてそのほとんどを再使用することにした。

 引っ越しから数週間がたち、引っ越し直後の段ボールの山はなくなりつつある。






(上毛新聞 2009年5月27日掲載)