視点 オピニオン21 |
■raijinトップ ■上毛新聞ニュース |
|
|
◎受け皿産業の育成を 大学教員にとって、学生の就職率は大きな関心事である。とりわけ今年は、経済危機の影響が求人に影響を与えているといわれており、例年にも増して学生は苦戦しているという。 学生の就職活動は年々早期化する傾向にある。一般的には、大学三年の秋ごろから本格的な就職活動が始まるが、その準備として春から早々とセミナーに通う学生もいると聞く。 就職活動が早期化する理由はさまざまである。企業側の「青田買い」が問題とされて久しいが、学生側にも安穏と勉学だけに打ち込んでいられない理由がある。それは、現在大学生が直面している新卒労働市場の競争が、近年非常に厳しくなっていることと関係している。 確かに高校卒業者数は、一九九二年度の百八十一万人から二〇〇七年度には百十五万人と四割近く減少した。しかし、その一方で36%だった進学率は54%まで増加している。高校生の半数以上が大学・短期大学へ進学する時代となっているのである。 大学入学者数は六十万人を超え、ここ数年は毎年五十五万人を超える卒業生が社会へと巣立っている。少子化が進行し、経済全体の労働力が減少していく中、高等教育を受けた人材は確実に増加している。 このように、新卒労働市場を注意深くみると、新卒学生の就職難は経済危機や不況によるものだけとは言い切れない。むしろ、わが国が抱えている産業構造上の問題と言ってよい。新卒労働市場において、過剰な労働供給が発生しており、高等教育を受けた人材を吸収する受け皿産業の育成が不十分なのである。それがゆえに、今回のような不況に対して、新卒者の就業がより一層厳しいものになっているのである。 わが国の産業構造は、金融、保険、運輸、通信、不動産、飲食、卸売り・小売業などから構成される第三次産業が全体の六割以上を占めている。これまで、とりわけ文科系学生の多くは第三次産業に吸収されてきた。しかし、今後新卒者が増加していくことを考えれば、他の産業でも積極的に彼らを雇用できる環境を構築していく必要がある。それが技術主導型の成長を促すことにつながるからである。長期的な政策として重要である。 高度に教育された人材が効率よく雇用されない状況の下で、教育の重要性を説いてみたとしても、どこかむなしい。教育を受ける意義と喜びを実感できる産業構造を、官民協力のもと構築していくことが急務である。 先日、たまたま若い社会人の方と話をする機会があった。働きながらも留学の機会を考えているという。日本の成長、まだまだ期待がもてそうである。 (上毛新聞 2009年5月21日掲載) |