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◎慎慮の経営倫理確立を 今回の世界的な経済危機の端緒が、米国の住宅サブプライム問題にかかわる信用危機にあったことは周知の通りであるが、その信用危機を招いた原因をさらに探ってみると、実はさまざまな要因が重なっている。近着のニューズウィーク誌も、ウォール街の金銭欲、腐敗した企業幹部、市場万能の経済哲学、誤った住宅取得奨励策、お粗末な危機対策などいくつも挙げている。経済危機の渦中にあって、先も見通しがたい現状であるが、私は目先の対策だけでなく、中長期の政策対応を考えるうえでも、今回の経済危機を招いた根因を見極めておくことが不可欠だと考えている。 今回の信用危機には、雪だるまのような借金の累積があった。問題は、その主たる仕掛け人である。それは、これまで時代の寵児(ちょうじ)ともてはやされてきた投資銀行をおいてほかにない。米国生まれの巨大投資銀行は、実態がつかみにくい影の銀行(表の商業銀行との対比で)ながら、近年ウォール街の主役となり、さまざまな金融・保険手法(証券化・貸し倒れ保険など)を駆使しつつ、各国から余剰資金を借り集めて(借入額は何と自己資金の三十倍にも)、法外な利潤をかせいだ。十年ほど前にはリーマン・ブラザーズほか八社も存在していた。それが、今回のバブル崩壊で総崩れとなった。「錬金術師は実は大量破壊兵器だったのか」などと揶揄(やゆ)されていて、お金の亡者と化したその姿は今日、世間の顰躄(ひんしゅく)をかっている。 実は問題の根は深く、こうした投資銀行を生み出した経済風土(市場原理主義)にもあるわけだが、率直に言って私は、そこに「市場経済の性(さが)と業(ごう)」を感じる。ともあれ、改めて市場経済の基盤的支柱たるべき慎慮の経営倫理(ブルーデンス)の確立を、急務と思わざるを得ない。 ここで見逃してならぬのは、市場経済の暴走を察知していたにもかかわらず、それを放置してきた政策当局の甘い態度ではなかろうか。政権を担当してきた共和党はもちろん、野党の民主党ですら、金融業界には、厳しい態度をとらなかった。わけても私が釈然としないのは、歴代の財務長官の中には何人もウォール街出身者が名を連ねていることである。さらに言うなら、時々の政権から距離をおき、自主的運営を信条としてきたFRB(連邦準備制度理事会)が、政権に遠慮してか後手後手に回ってしまったという点である。 ひるがえってわが国にあっても、これらを他山の石として、今後に活(い)かしてもらいたいものだ。「バブルは多年草」(金融史家キンドルバーガー)などとの物言いで済ましてはなるまい。 (上毛新聞 2009年5月8日掲載) |