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◎味覚の分かる消費者に 十数年前になりますが、国産の食用米が不足してタイ国産の極上米を輸入したことがあります。しかし、日本では全く不人気で、大量に売れ残ってしまいました。米の味は、イネの種類や品種によるばかりでなく、栽培条件、調理法、食習慣などにより大きく異なります。日本で栽培されているのはジャポニカ種で、タイなどの熱帯アジアのインディカ種とは、栽培特性や品質・食味が違います。日本では、「コシヒカリ」が最も人気がありますが、インディカ種を食べ慣れたタイなどの国々では好まれません。世界のイネの種類の中では、ジャポニカ種は、かなり特異な性質を持っており、米粒が丸く、飯米の粘りが強く、寒さに強いなどの特徴があります。 米はデンプンの性質により、「うるち」と「もち」に分けられます。うるち種デンプンはアミロースとアミロペクチンからできており、もち種のデンプンはアミロペクチンだけからできています。日本人好みの粘り気のあるうるち種の米には、アミロペクチンが多く含まれアミロースが少なくなっています。ちなみに、日本では人気の出なかったタイ米のアミロース含有率は、30%近くだったのに対して、日本で人気の高いコシヒカリは半分程度のアミロース含有率であり、その分アミロペクチンの含有率が高くなっています。 飯米の味と関係の深いアミロースの含有率は、品種や栽培条件により変化します。北海道などの低温域で生産される米は、アミロース含有率は高まる傾向があり、おいしくないという印象を受けやすくなります。ところが、近年、うるち品種のアミロース含有率を低くする遺伝子が発見されました。これを使って、北海道の農業試験場では、低アミロース品種の開発に成功し、北海道産米の食味は飛躍的に向上しました。 コシヒカリは、どこで栽培しても多くの消費者に名実ともに「うまい米」と信じられています。これに対して、北海道で栽培される品種は、元来アミロース含量が高いうえに、低温条件で栽培すると、さらにアミロース含量が高くなる傾向があり、消費者には「うまくない米」とも思い込まれてきました。 しかし、品種改良によって「うまい米」に変身したはずの北海道産米は、実は米穀業者にとっては、「うまみのある米」になる可能性があります。本来好ましくないことですが、「うまくない米」という評判を利用して安く仕入れ、「うまい米」とブレンドすることにより高く売ることができる可能性が出てきたわけです。品種改良によりうまくなった北海道産米を「うまみのある米」にさせないためには、消費者が味覚を研ぎ澄まして「うまい米」を見分けることが重要であると考えます。 (上毛新聞 2009年4月30日掲載) |