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◎新作の小噺に驚嘆 大田区の子ども落語講座から依頼を受けたのは一昨年の夏。日本の伝統文化を学びながらコミュニケーション能力の向上を図るという趣旨に賛同し、講師を務めることになった。二十畳ほどの和室を埋めるのは小一から中一までの男女四十人。年齢差のある子どもをひとまとめにして大丈夫かという懸念は初日で吹き飛んだ。“落語が好き”という思いで集まった生徒たちは一つにまとまり集中はとぎれない。休憩をはさんで三時間という大学並みのカリキュラムにもかかわらず、私語する者もほとんどいなかったのである。 授業では毎回落語を実演した。子どもたちの笑いはパワフルだ。大声をあげ、腹をかかえ、座敷をころげまわる。最もウケたのが「味噌(みそ)豆」という小噺(こばなし)―。 台所で味噌豆をつまみ食いする小僧の定吉。旦那(だんな)にしかられ使いに出される。残った旦那もつい豆に手を伸ばす。「ここで食べてるとまずいな」。思いついた場所は“はばかり(お手洗い)”。小皿を手に中に入ってひと安心。帰ってきた定吉は旦那がいないのを幸いに台所でふたたびつまみ食いを始める。「ここはまずいな。そうだ。はばかり、はばかり―」。戸を開けると旦那はしゃがんで食事の真っ最中。「あーっ、旦那」「定吉、何しに来た!」「おかわりです」 この話を披露した翌日、受講生の女の子が声をかけてきた。 「みそまめみたいなおはなし作ったよ」 目の前で演じてくれた新作を再現すると――。 秋が来てお寺の柿の木には実がいっぱいなっています。和尚さんが小坊主の珍念を呼びました。 「この柿を取ってはならんぞ。わかったな! ではこの手紙を届けて来なさい」 「へーい」 「よしよし、今のうちにハシゴをかけて、トコトコトコッ(ハシゴを登り柿をひとつふところに入れる)。あとで食べよう」 「行ってきました。あれっ和尚がいない。こんなところにはハシゴがある。トコトコトコッ(こちらも柿ひとつふところに)」 「珍念はおらんかー」 (あわててハシゴをかたづける) 「おやっハシゴがない。柿を取ったな珍念」 「すみません。でもハシゴがかかってました。和尚も取ったでしょう」 「バレたか。じゃあ一緒に食べよう」 (ガブリとやった二人が顔を見合わせ) 「しぶーい」 思わず“うまーい”とツッコミたくなる創作力。みごとなヒトクチ話に子どものはかり知れない可能性を実感した。 作者の小林ひかりちゃんは当時小学二年生。今や竜楽独演会のご常連である。 (上毛新聞 2009年4月22日掲載) |