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青山学院大総合文化政策学部准教授  宮澤 淳一(東京都杉並区)



【略歴】太田市出身。青山学院大、早稲田大卒。トロント大客員教授などを経て2008年4月から現職。著書『グレン・グールド論』(吉田秀和賞)、『マクルーハンの光景』など。



大学生の勉強法(上)



◎「切り替え」ということ



 進学・進級の季節になった。小・中・高校、各種学校、大学など、新しい環境で、新しい仲間とともに新しい内容を学ぶ皆さんとご家族にお祝いを申し上げたい。また、地固めをして次の機会を狙う人は、ぜひがんばってもらいたい。

 この時期に大切なのは「切り替え」だ。上級の学校に進んだ場合、勉強法や学習態度を切り替えないと、それまでの優等生が急に失速することがある。上手な切り替えができて頭角を現わす人もいる。予習はせず、学校の授業は聞いていればわかったし、復習は宿題程度だった、という人は、そのままでいると、中学か高校に進んだ段階で一気にできなくなるので要注意。そしてここでは、大学に進学したときの切り替えに絞ってアドバイスをしたい。

 「チェックペン」と呼ばれる赤や緑のマーカーがある。教科書や参考書のキーワードを塗り、逆の色のシートをかぶせると塗った個所だけ見えなくなる。暗記をするための便利な道具だ。大学受験まではお世話になった人も多いはずだが、大学では、語学など一部の勉強でしか役に立たなくなる。確かに高校までの勉強は、暗記中心であり、説明内容に相当するキーワードが答えられればほぼクリアできた。ところが、大学の勉強ではその正反対が要求される。

 キーワードを除いて文章が真っ黒に塗られたページをイメージしてほしい。そのページの内容を、口頭でいいから、カッチリ説明できるだろうか。大学生の頭脳はそこから回転し始める。つまり、大学生以上の「勉強」の基礎とは、キーワードを定義したり、関連する知識を過不足なく説明できるかどうかが第一段階。キーワードについて自分の考えや意見を表明できるかどうかが第二段階。いくつかのキーワードをめぐる知識や意見を整理し、独自の調査と考察を加え、その結果を新しいキーワードのもとにまとめられるかが第三段階。

 実はこの第三段階を「研究」と呼ぶ。大学院生や大学教員は常にこれを求められるが、大学生は、卒業論文などを除けば、まだ第二段階までの「勉強」が中心となるだろう。実際、大学の定期試験は論述形式が基本だから、試験前になったら、ただキーワードを覚えるのではなく、キーワードについて説明する練習から始めることだ。すると、もはやキーワード自体を覚えようと必死になっていた高校生・受験生時代が過去の思い出と感じられるはず。そこで初めて「切り替え」ができたことになる。

 もっとも、大学は試験対策ばかりを意識して勉学に励む場ではない。勉学の基礎は、授業に出て、教員の話をよく聴き、自分できちんとノートを取ることから始まる。「ノートの取り方」については次回に―。





(上毛新聞 2009年4月7日掲載)