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共愛学園前橋国際大学長  平田 郁美(高崎市上中居町)



【略歴】横浜国立大卒、都立大大学院修了。理学博士。横浜国立大助手などを経て共愛学園前橋国際大教授。2008年4月から現職。県地域新エネルギー詳細ビジョン策定委員。



人生の支え



◎わくわくする体験を




 昨年秋、小林誠、益川敏英、南部陽一郎氏がノーベル物理学賞を独占して受賞、下村脩氏がノーベル化学賞受賞と、日本人科学者の快挙に日本中が沸きかえった。成人式に出席した新成人が「歴史に残るような物理学の発見をしたい」と夢を語る様子がテレビのニュースで流れていた。大学受験の大手予備校によると、今年は物理学科の志望者が増え、ノーベル賞効果と考えられるそうだ。暗いニュースが続く中、若者や子どもたちにたくさんの夢を与えてほしい。

 私は「鉄腕アトム」に熱狂して育ったアトム世代だ。週一回の放送がどんなに待ち遠しかったことか。アトムは科学の子、科学技術の進歩の先に見える明るい未来を象徴していた。また、当時の子ども番組には新しい装置を次々に作り出す科学者が登場し、その装置が難局を切り開くキーとなったものだ。かっこよかった。あこがれた。時代は高度成長期。技術大国日本が右肩上がりに成長していた時代だ。科学技術発展の先の明るい未来を信じて育った私たちの世代は幸せだったのかもしれない。

 大学院に進み、素粒子物理学を学んだ。素粒子物理学とは、自然界を構成する最も基本的な要素とは何かを追求する学問だ。当時、今回のノーベル賞受賞と深く関係する画期的な実験結果が次々と発表され、国内外の素粒子論研究室が活気づいていた。楽しかった。わくわくした。自分も最先端の研究についていこうとがむしゃらに頑張ったが、残念ながら力が足らず、結局素粒子物理学の研究で貢献することはできなかった。しかし、そこで学んだことは形を変えて今の私を支えている。

 共愛学園前橋国際大学(着任当時は共愛学園女子短期大学)に勤務して十八年。情報と数学を教えている。私が素粒子物理学の研究を通してわくわくする高揚感を体験したように、学生たちにもわくわく感を体験してほしい。わくわく感に誘われて何かに熱中し、それに精いっぱい打ち込む、そういう対象をもってほしい。もしも自分が熱中したものが将来の進路になれば、もちろん素晴らしい。しかし、たとえ他の道を歩むことになったとしても、精いっぱい打ち込んだという体験は形を変えて必ず自分を支える。

 卒業式のシーズンだ。卒業や進路決定の時期にいる若い皆さん。景気が落ち込み先行きの不透明な状況が続いている。でもこんな時こそ元気を出して、新しい一歩を踏み出そう。精いっぱい打ち込んだことが無駄になることは決してない。自分の選択に自信を持って、自分の道を歩んで行ってほしい。




(上毛新聞 2009年3月21日掲載)