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◎応分のコスト負担を 郷里太田市は、県内主要都市の中で、人口一人当たりのラーメン屋件数が最も多い地域である。数百メートルごとにラーメン屋が軒を連ねている街道も多い。 その中、郷里に帰ると必ず立ち寄らせていただくラーメン屋さんがある。食事時分には順番待ちを余儀なくされることも少なくないが、それでも足しげく通うのには理由がある。美味であることに加えて、一杯を提供する笑顔に「安心」を感じ、「また来よう」という気持ちにさせられるからである。 経済とはモノやサービスを生産し、そしてそれを消費する無限の営みである。今日、経済がグローバル化した結果、われわれは多種多様なモノを享受することができるようになった。グローバル化の長所(メリット)である。しかし、同時に生産者は、自らが生産したモノがどこで誰によって消費されるのか考え難くなってしまった。消費者の顔が見難くなったといってもよいだろう。少なくとも、近年巷間(こうかん)を騒がす食品偽装といった事件は、消費者の顔が見えていた時代には起こりにくかった問題である。 費用(コスト)を抑えることは企業努力として望ましいが、われわれ消費者はモノに加えて「安心」をも購入しているというのだという点を生産者は忘れてはならない。近年、市場取引されるモノについて、誰がどこでどのように生産したのかを明示する追跡可能性(トレーサビリティ)を重視すべきとの議論が盛んである。どこまでを追跡(トレース)するのか問題も多く試行錯誤の段階であるが、少なくとも、何を原料にしてどのように加工し市場に卸したのか明示することは、グローバル化時代の市場取引には不可欠である。 もっとも、市場にあふれるすべてのモノにトレーサビリティを義務化すれば、そのコストは膨大なものとなろう。それが実現すればモノの価格は確実に上昇し、ひいてはインフレの遠因になりかねない。しかし、すでに今日の経済が、グローバル化されてしまっていることをかんがみれば、われわれ消費者もまた、安心を確保するためにはコストがかかるという現実をそろそろ受け入れてもいいのではないか。安心で安全で安価なモノは誰でもほしい。しかし、グローバル化のメリットを享受しながら同時に安心を得たいと願うのであれば、われわれは応分のコストを払わねばなるまい。もちろん、このようなシステムが構築されれば、生産者は購買層や需要構造を「逆トレース」できるので、市場調査にかかるコストが軽減でき、ひいては市場価格が下がる可能性もある。 生産者の笑顔が見え、消費者の笑顔が見える経済。新たな時代に合った古き良き経済システムの再構築が求められている。 (上毛新聞 2009年3月18日掲載) |