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脚本家  登坂 恵里香(横浜市瀬谷区)



【略歴】渋川市出身。早稲田大第一文学部卒。会社員を経て脚本家に。主な作品にテレビドラマ「ラブの贈りもの」「虹のかなた」、映画「チェスト!」(小説も発刊)など。



「郷中教育」の可能性



◎憧れの存在を間近に




 「二分の一成人式」という行事をご存じだろうか。

 二十歳の半分の十歳をひとつの節目ととらえ、将来の自立に向けてこれからの十年に思いをはせる、そんな機会として取り入れる学校が増えているようだ。我が家の四年生の娘が通う小学校でもつい先日開催され、子供たちが一人ずつ「将来の夢」について発表した。

 将来はスポーツ選手や刑事になりたいという子が多く、理由として「○○というオリンピック選手に憧(あこが)れているから」「ドラマを見て憧れた」という声が多く挙げられた。誰かに憧れ、自分もああなりたいと思う、その構図は昔も今も変わりはないのだなとほほ笑ましく思う半面、こうも思った。「憧れの対象は画面の中だけ?」

 そんなふうに感じたのは、映画「チェスト!」の取材で鹿児島の「郷中(ごじゅう)教育」に出合ったことがきっかけだ。

 西郷隆盛など多くの人材を生み出した「郷中教育」は、「大人は介在せず、年長の子供が年少の子供を鍛え導く」のが特徴だ。現在の鹿児島では、下は小学一年から上は高校二年までの子供が週に一度、お寺や神社の境内に集い、薩摩武道の鍛錬などを通して、伝統の精神を学んでいる。

 「先生役の年長の子は、年下の子供たちの手本にならなければと自分を律する癖がつくし、年少の子は『ああなりたい』という憧れの存在を間近に持つことで大きく成長する。集団内のトラブルの解決も全部自分たちで行うため、大人に頼らず考え抜く力がつく」

 取材に応じてくれた神社の宮司さんの言葉だ。

 「異年齢の子供同士」が触れ合うことで、年長年少、双方の子供が伸びていく。これは、鹿児島に限らず、どこの地域でも応用実践が可能なのではないだろうか。

 実際、娘の通う小学校では「仲良し学年」といって高学年と低学年の子が年間を通してペアを組み、一緒に給食を食べたり本を読んでやったり、という活動が定期的に行われてはいる。そういう活動を「もっと」と思う。地域の子供会活動等においても「高校生や中学生に小学生の面倒を見させ、年上のかっこ良さをアピールする」機会をもっと意識的に戦略的に設けてみてはどうだろう。

 「あんなふうになりたい」と思える憧れのお兄さんお姉さんが身近にいる。思う方思われる方双方にとって幸せなことではないだろうか。






(上毛新聞 2009年3月13日掲載)