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◎未知の世界の厳しさ知る 二〇〇六年三月から南牧村中心の生活をスタートさせた。「村おこし」の第一歩は、南牧村の知名度を上げ、交流人口を増加させることだと位置づけ、その受け皿になる施設づくりと、県内外にアピールできる「地域資源」の発掘に取り組むことにした。 施設といっても単なる建物だけでは、村おこしの拠点としての役割を果たすことにはならず、わが相棒といろいろ考えた結果、思いついたのが「手打ちそば屋」であった。恥ずかしいほど泥縄だが、相棒の趣味がここで役立つことになった。店もこれまで借りている家を自力改装することに決めた。 思い立ったら…で、翌日から工事に取りかかったが、大工経験や基本図面があるわけでもない。相棒と二人でイメージを膨らませながら、築百三十年の建物にふさわしく、昔懐かしいたたずまいに復活させることだけを目標とした。材料も新建材は一切なしで、「無垢(むく)板」を使い、四月中旬の開店を目指した。まず飲食店の基本である「厨房(ちゅうぼう)」作りから工事を開始した。 朝六時から夕方六時くらいまでの長時間労働である。これまでの仕事柄、「これは労働基準法違反だな」と軽口をたたきながらも、工事は順調に進んだかに見えたが、やはり素人大工の浅はかさであった。 天井や隅の細工が思うにまかせず、やり直しの連続である。八畳ほどの厨房工事に半月以上の時間を費やしてしまい、四月中旬の開店など到底無理だということを思い知らされた。それでも、五月の連休までにはと、急ピッチで工事を進めたが…。 失敗の連続であった。「プロの大工さんに任せた方が」という思いも頭をよぎった。しかし、「ここでくじけては、村おこし運動も無理だ」と、ヘトヘトの体にむちを打った。水回りやトイレ工事以外はすべて手作りで、やっとの思いで完成させたのは、連休も過ぎた五月中旬であった。未知の世界に飛び込む厳しさを、まざまざと見せられたが、久々に初心に立ち帰ることができた。 五月二十二日、「手打ちそばかじか小屋」が開店した。店名は、南牧村の豊かな自然をイメージし、清流にしか棲(す)めない魚「かじか」からいただいた。 拠点はできたものの、まだ村おこし運動の入り口である。これから「自分の能力と行動力が試されることになるな~」、という不安を感じながらも、南牧村の売りは、手つかずの自然と「石積み段々畑」だと心に決めた。 (上毛新聞 2009年2月27日掲載) |