視点 オピニオン21
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日本動物愛護協会群馬支部長  石井 文子(高崎市岩押町)



【略歴】埼玉県出身。2001年、日本動物愛護協会群馬支部を結成。同支部のアニマルランドで犬と猫の里親探しに力を入れる。また、講演会など啓発活動を積極的に行う。



もの言わぬ動物たち



◎悲劇招く無責任な飼育



 白衣大観音が慈悲に満ちたお顔で私たちを見つめる高崎の観音山。山のあちこちで梅の花が咲き始める早春、私は信じられないような体験をした。「犬がたくさんいます。死んでしまう……」

 協会に駆け込んできた中年女性の言葉に、観音山へ向かった。何十匹もの犬を飼っている家。一台の車の中に、異様に動き回る犬が五匹いた。別の車の中には、生まれて間もないのだろう、子犬が五匹。成犬二匹に押されておびえているようだ。このままだと、踏みつぶされてしまうかも。「面倒をみないのなら、子犬五匹を協会に連れてきてください。もらい手を探しますから」

 私たちは強い口調で言った。勢いに押されたのか、翌日飼い主が五匹を運んできてくれた。体中汚れ、異様な臭いが鼻を突く。とにかく、全身をきれいに洗ってあげることから始めた。洗ってみて驚いた。生後二カ月くらいだろうが、どの子も柴犬や秋田犬に似たかわいらしい顔つきだった。ごはんをあげても、まだおびえた目のままだ。

 生まれてからやさしくされた経験がないのだろう。私たちは、抱きしめてあげることしかできなかった。ちょっと安心したのか、震えがおさまっていった。

 翌日もごはんをあげて、抱きしめてとかわいがっていると、その子たちも心を開いてくれたようだった。ここへきた時は、隅にうずくまってふるえていたのに、ケージの中を走り回っている。私たちにも笑顔が戻った。

 でも三日目のことだった。そのうちの一匹がごはんを食べない。つらそうで、歩かない。「もしや……」

 お医者様に診てもらったら、深刻な病気にかかっていた。ほかの犬や猫もいるので協会の中に置くこともはばかられる。そうしたら、ボランティアのSさんが自宅で預かってくれるという。でも、日がたつにつれて段々弱ってきて、息も絶え絶えになってきた。

 お医者様に相談の上、私たちは決断せざるを得なかったのである。「安楽死」させることを。これ以上苦しませるわけにはいかない。

 この子たちに、なんの罪があるのか。この子たちは、なんのために生まれてきたのか。無責任に動物を飼うことが、どれほどの悲劇を招くか。旅立っていった子たちの骨つぼの前で手を合わせ、お線香をあげながら、浮かんでくるのは「せめて今度生まれてくる時は、幸せな星のもとに……」の言葉しかない。そして、もの言わぬ彼らに許しを請うしかない。「ごめんね、人間って勝手だね」





(上毛新聞 2009年2月18日掲載)