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◎法廷での主体性実現へ 本年五月から裁判員制度による刑事裁判が始まる。国民の司法参加と刑事裁判に市民感覚を反映させることが狙いとされ、最高裁や法務省のさまざまな広報活動やマスコミの特集等で国民への浸透率は高い。わが国において、裁判員制度になじむ歴史的、文化的背景があるのか等の疑問はあるが、それはともかく、司法改革の波は犯罪被害者問題にも押し寄せ、裁判員制度に先駆け、被害者参加制度という新たな制度が昨年十二月から開始された。 これは、刑事裁判に被害者が参加する制度であり、被害者は従来の傍聴席ではなく、法廷内に入ることができるようになった。また、少年事件においても、これまで密室のなかで行われていた審判を被害者が傍聴することが可能となった。 参加や傍聴には一定の制約はあるが、これまで証拠品でしかなかった被害者にすれば、司法が被害者の尊厳を認め、法廷が回復のきっかけになる可能性を与えた意義は大きい。被害者の負担を増やすものという慎重論もあるが、これまで被害者を閉め出していた世界が開かれ、その場に入るか入らないか、被害者自身に選択権を与えたことに価値がある。なぜなら、そこに被害者の主体性が実現され得るからである。 他方、刑事裁判に被害者が参加しようとしても、被害者や遺族は、何をどうしていいのかさっぱり分からないという方が大半ではないかと思う。この点、捜査官や検察官は、被害者や遺族に必要な情報を提供してサポートを行うし、また、弁護士も必要な支援態勢を整えている。さらに、資力の乏しい被害者が弁護士の支援が受けられるよう、国選被害者参加弁護士制度もスタートした。被告人に国選弁護士がいるなら、被害者にも国選弁護士を付けようという発想である。また、並行して損害賠償命令制度も始まった。これまで、加害者が刑事事件で有罪となっても、被害者は別の手続きで損害賠償を求めるしかなかったが、そこに二度手間の苦痛や負担、また、新たな二次被害の発生等が指摘されていた。それらを改善するべく、被害者の申し立てにより、加害者に有罪判決を下した裁判所が、裁判記録を踏まえて損害賠償命令を行うもので、これで刑事と民事の壁が一部取り払われた。 これらの新たな制度は、急ごしらえで立法、施行された観があり、スムーズな運用ができるのか、また、被害者参加が裁判員の判断にどのような影響を与えるのか不安がる声はある。いずれにしろ、刑事司法がこれまで体験したことのない未知の分野に足を踏み入れたのであり、今後、発想としても、また、実務においても、被告人の権利を守るためだけではなく、被害者のためにもなる刑事裁判の実現に腐心していかなければならない。 (上毛新聞 2009年2月13日掲載) |