視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
ピアニスト  澤田 まゆみ(高崎市箕郷町)



【略歴】東京芸大、ドイツ国立リューベック音大卒。東京芸大大学院修了。2006年から新島学園短大専任講師。07年、上毛芸術文化賞受賞。ぐんま日独協会、群馬音楽協会理事。


人種、国境を超えるもの



◎願いや想い認め合う心



 音楽やスポーツはよく「人種や国境を超える」といわれます。その根底にあるものは何なのでしょうか。

 世界で活躍する日本人も多いですが、日本の音楽・スポーツ界で活躍する外国人の様子も数多く報じられています。彼らの活躍に感動し、勇気づけられている人も多い一方、お互いの文化や風習の違いが気になる人もいます。

 人はそれぞれ異なった環境で生まれ育ち、それぞれの身体的、文化的特長をもっています。またそれにより人とのかかわり方や表現方法もさまざまです。数年前、そんな一連のプロセスを、ある友人の言葉をヒントに「受身(じゅしん)・温身(おんしん)・発身(はっしん)」というキーワードで考えてみたことがあります。人は一種の環境動物であり、その環境や文化に応じて生き(受身)、それを身体の中で温め(温身)、実際どのように行動したり表現していくか(発身)を繰り返している、と。

 今や、人はこれだけ世界を飛びまわり、メディアも発達していますから、その「受身」の相違は小さくなってきているのかもしれません。それでも「温身」の仕方は人それぞれ、「発身」に至ってはさらに千差万別です。音楽もスポーツも、人種や国を問わず世界じゅうで楽しめる時代となりましたが、その楽しみ方、ルール、表現方法は必ずしも世界共通とはいえません。それでもそれを「超える」ものとは何でしょうか。

 一月三日、富岡市のかぶら文化ホールで、ウィーン・リング・アンサンブルのコンサートが行われました。演奏者はウィーン・フィルメンバーであり、そのコンサートの二日前にはウィーンでのニューイヤーコンサートに出演しています。まさに直輸入の音楽、ウィーンで古くから親しまれているポルカやワルツで、それらとは縁遠いはずの日本の聴衆を心から楽しませました。

 一月十八日に行われたアメリカのオバマ新大統領の就任記念コンサートでは、人種を超えたアーティストたちが“WE ARE ONE”をテーマにメッセージを共にし、人びとの願いや想(おも)いを音楽によって表現した姿がありました。

 これらの音楽を人種や国境を超えて心底人々が楽しみ、また感動を共有できた源は何でしょう。それはアーティストたちのレベルや技術だけでは決してないと思うのです。

 お互いの受身、温身、発身を認め合いながら、その発身の根底にある想いや願いに心が向けられ、それを共に感じることができた時、私たちは人種や国境を超えた感動を共有できているのではないでしょうか。





(上毛新聞 2009年2月12日掲載)