視点 オピニオン21
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NPO法人リンケージ理事長  石川 京子(伊勢崎市羽黒町)



【略歴】津田塾大卒。リクルート勤務後、東京大大学院修了。高崎を拠点に、発達障碍のある成人の就労支援、児童や家族への療育援助、サポーター育成のNPO運営。



笑いの価値



◎人間の最強の武器



 私には弱点がある。普通の人よりははるかに少ないが、どう見積もっても千ぐらいはある。中でも提出物を忘れる、早合点する、は弱点ランキングの一、二位を争う。気がついてないが、ひょっとしたら、提出するということ自体を忘れているという弱点もあるかもしれない。そうであれば、隠れランキング第一位は確実である。このような中、私は最近お得な言葉を見つけた。「加齢による変化で…」と言えば、多くの人が笑って許してくれるのだ。皆思い当たる節があるのだろう。でも、その笑いのおかげで私は弱点におびえたり、深刻になったりせず、毎日を「これでもいいのだ」と、幸福に過ごすことができるのである。

 これがこと発達に障碍(しょうがい)のある子供の場合はどうであろう。この世の中は多くの場合、多数派と呼ばれる人々に合わせて基準やルールができあがっている。いわゆる「普通」と呼ばれているものである。少数派の障碍のある子どもたちは、この「普通」に近づくための目標を常に掲げられ、トレーニングや努力することが求められる。加えて、彼ら彼女らが心地良いとか楽しいと感じられることが、そのまま認められることも少ない。これでは、この世は生きづらいと感じることも多いだろう。

 このように、発達障碍のある子供が社会に応じる術を身につける過程には大変なことが多い。その大変さに立ち向かっていることに心からの敬意を払い、ほんのちょっぴり笑いを忍び込ませることは、大して難しいことではない。サッカーボールは鈴をたくさん張り付けてければ、チロチロリンとステキな音もするし、何よりへんてこな動きをする。来るべきところにボールは転がってこないから、先生は空振りしてずっこける。それだけで笑いがどっとおきて、子供たちは走り出す。面白い。さらに、運動にたけた子供だけが楽しめる遊びではなくなる。新たなルールをみんなで話し合い、社会の中で折り合う術を身につけてゆく。あらかじめルールがあるサッカーとは違う集団遊びのできあがりである。

 笑いは、時に私たちが過度に重要視している価値観を撃退してくれる。「普通」という魔物を笑い攻撃することで、私たちは「思っていたより、重大なことにはならないものだ」と気づき、違うことへの過度の恐怖が和らぐのではないだろうか。普通のサッカーもいいが、鈴つきサッカーもなかなかいけるものである。そして何より、人間、笑いながら怒ることはできない。これだけでも、笑いとは人間に与えられた最強の武器だと思うのである。





(上毛新聞 2009年2月10日掲載)