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NPO国際エコヘルス研究会理事長  鈴木 庄亮(渋川市北橘町)



【略歴】】群馬大医学部卒、東京大大学院修了。東京大医学部助教授、群馬大医学部教授(公衆衛生学、生態学)、群馬産業保健推進センター所長など歴任。群馬大名誉教授。


病気予防と心の健康



◎もっと運動をしよう



 インドネシアの西ジャワ農村に一九八〇年代、住み込んで健康調査を行った。人口三百三十人の集落、半数以上が回虫と鉤虫(こうちゅう)の虫卵保有者であった。しかし、その集落には肥満者がいないことと、中高年でも高血圧者がいないことに感銘をうけた。

 厚生労働省の調査によるとわが国の成人の肥満は、およそ男で30%、女で25%に上る。同じく高血圧者は、日本高血圧学会の基準で見た場合およそ男50%、女40%である。二〇〇八年末に同省から発表された〇三年の糖尿病とその疑いのある者を加えた数は、全国で二千二百十万人、中高年者の約30%にあたり、十年前の一・六倍になったと報道された。

 高血圧も糖尿病も自覚症状がなく、多くは定年退職後に重くなり、生活習慣病をおこして医療や介護を受けることになる。生活習慣病をドイツでは「文明病」と名づけている。まさに、豊かな社会での、飽食、運動不足、食事の偏り、喫煙、飲み過ぎなどがその根本原因である。このことは誰もが知っている。

 古代人は集団で食べ物を求めて長時間歩き、走り、活動して初めて食べ物にありついた。西ジャワの農民も水田の田起こしなどに重筋労働をしていた。ヒトの歴史六百五十万年の間、運動と食事はいつもセットになっていた。

 運動はストレス解消にもなり、うつになるのを防ぐ。群馬の一万一千人の中年男女を対象に七年間二回の調査を行った結果でも、七年間ずっと運動をしなかった人のうつ病リスクを一・〇とすると、ずっと運動をした人は男で〇・二、女で〇・四と著しく低かったのである。運動は結局、死亡率も下げる。日常運動をする中年男女は、しない人より死亡リスクが20―30%低かった。

 運動奨励策を実施している事業所は、うつや不定愁訴者が少なく、受診回数が少なく、健康保険の平均医療費も一人平均年二万円少ないことをつきとめた。

 男で全く運動をしていない人の割合は、福島県の某大企業の男性で77%、東京近郊の会社員で55%前後だった。さすがに米国の西海岸住民では14%と極めて低かった。日本で最も運動をよくしている集団は、驚いたことに東京近郊の医師で、全く運動をしない人は22%とぐっと少なかった。

 多くの勤労者は「運動したいのだけど、運動をする時間がない」と言う。しかし、これが言い訳であることは明白である。「自分の好きな運動をなんでも工夫してやってください。家の中で朝晩十五分ずつでいいですから」と私は勧めている。あえて運動でなく、掃除、片付け、庭仕事、徒歩通勤など生活行動で代行しても、もちろんよいのである。もっと運動をしよう。





(上毛新聞 2009年1月31日掲載)