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◎「車椅子の采配」に学べ 今年の日本経済の行方は、米国発金融危機拡大の影響を受けて、俄にわかに雲行きが怪しくなってきた。世の指導者、なかでも内外政治家の真価が問われること必至だ。 こうした情勢下、いよいよ登場する米国新大統領の一挙手一投足に、世界の注目が集まっている。先般の大統領選直後の勝利宣言の中で、「米国民よ結束せよ、変革の機が到来した」と呼びかけたオバマ氏が、そのビジョンとプログラムに、どのような肉付けをするのか、私も大きな関心を寄せている。 そこで想起されるのが、およそ八十年前の、あのルーズベルト大統領の世界恐慌脱出への取り組み姿勢である。私も、一研究者としてニューディールの足跡を繙ひもといているのだが、そのエッセンスをここで要約してみるならば、次の三点であろう。 第一は、国民の先頭に立った大統領の並外れた政治指導力である。就任直後、ラジオ放送(CBS)を通じて国民に語りかけ、失意の国民に希望の火をともし、国家への献身を呼び起こした。この「炉辺談話」の奏功は今も語り継がれている。そして、直ちに招集した緊急議会(百日議会)での矢継ぎ早の立法措置―主なものだけでも、全国産業復興法(NIRA)、農業調整法(AAA)、連邦預金保険公社の設立、銀行・証券法の改正など―が抜群の政策遂行能力を証している。 第二は、こうしたルーズベルト大統領の呼びかけに応えた、有能なブレーン・トラスト(ホプキンス、リリエンソールたち)や清廉にして勤勉なパブリック・サーバントたちの不眠不休の努力である。なかでも私が心を動かされたのは、かのテネシー渓谷開発工事では、その膨大な工事をめぐって一件の汚職事件も起こさなかったと伝えられていることである。 そして第三は、次世代のための社会資本のタネを蒔まいた戦略的公共投資―森林再生計画や電源開発計画―などの中身である。なかでも、「森林再生計画」の中核に、失職中の若者たちによる民間国土保全部隊を盛り込んだアイデアは、大統領自身の発意によるものと伝えられている。 ルーズベルト大統領は、小児麻ま痺ひの後遺症から車椅い子すの生活を余儀なくされた。が、そうした不自由な身をかえりみることもなく逆境に立ち向かった不ふ撓とう不屈の姿は、「車椅子の采さい配はい」と呼ばれた。いま、春秋に富むオバマ次期米大統領が、こうした偉大な先達から大不況脱出のカギを学び、今次不況からの窮地脱出の先頭に立つことを、期待してやまない。 (上毛新聞 2009年1月11日掲載) |