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東京農業大教授  藤巻 宏(藤岡市立石)


【略歴】】東京農工大卒。1961年に農林省に入省。いくつかの研究機関を経て、農業生物資源研究所や農業研究センターの所長を歴任。98年に東京農業大教授に就任した。


GM食品


◎いつまで敬遠できるか



 今や遺伝子組み換え技術により作られたGM作物の栽培面積は、世界で一億ヘクタール(日本の耕地面積の二十倍以上)に達し、その半分以上が米国で栽培され、トウモロコシの45%、ダイズの85%以上がGM品種で占められています。世界の穀物市場がGM作物に席巻されるのは遠くないとみられます。

 わが国では、消費者の理解が得にくいことから、GM作物の実用栽培や、それを原料として製造されるGM食品の販売は今のところ行われていません。醤油(しょうゆ)や味噌(みそ)の原料として非GMダイズが選択的に輸入されていますが、調達がますます困難になっています。食料自給率が40%程度のわが国では、今後とも大量の農産物や食品原材料を海外から輸入していく必要があります。

 GM作物やGM食品に対する消費者意識は、国や地域により異なります。米国では、科学的に安全性が確認できれば大衆に受け入れられます。しかし、わが国やEU諸国では、GM作物やGM食品に対する理解が十分に得られていないのが実情ですし、科学的に安全性が確認できても安心できないとする意見が少なくありません。もちろん、GM作物の生態系への影響やGM食品の人体への安全性が確認されなければ、普及や販売が許可されないことは言うまでもありません。

 科学的に安全性が確認されても、GM作物やGM食品が受け入れられ難いのには、次のような理由が考えられます。(1)消費者にメリットがない(2)価格がとくに安くない(3)なんとなく気味がわるい(4)安全性の科学的検証結果が信用できない―など。これらのうち、(1)と(2)は技術的に改善の見込みがありますが、(3)と(4)は対応が困難です。

 ところで、日常、口に入れている食物の安全性は、私たちの祖先が長い年月をかけて、経験と知恵で確かめてきた結果です。誰にでも絶対安全な食物はありません。米、そば、鶏卵などを食べてアレルギーを起こす人もいます。

 GM食品の安全性は、非GM食品と比較して、栄養素や成分が同等であるうえに、組み換え技術により導入された遺伝子が有害なタンパク質などを作り出さないことを科学的に検証する以外に方法はありません。因(ちな)みに、これまでにGM食品を食べた延べ人口は数億あるいは十数億に達するとみられますが、健康障害が報告されたことはありません。

 GM作物やGM食品を選択するか否かは個人の自由ですが、科学的根拠もなく思想信条によりGM作物の栽培やGM食品の販売、さらには遺伝子組み換え研究までも阻害することは許されることではないと考えます。




(上毛新聞 2009年1月6日掲載)