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キモビック代表 田中 美晴(大泉町朝日)



【略歴】】青森県東北町出身。2000年にブラジルのリオデジャネイロに留学。06年から大泉町に住み、ブラジル人との交流事業を行う「キモビッグ」を立ち上げる。



シュラスコのある町



◎ほのぼのと楽しい



 皆さんはシュラスコという料理を知っていますか? 炭火でじっくり焼く、ブラジルをはじめとする南米の肉料理です。大泉町近隣には現在、シュラスコを食べられるお店が数軒あります。

 システムは男性ウエーターが焼きあがったお肉を串(くし)ごと客席に運び、目の前で食べたい量を切り分けるというものです。勿論(もちろん)お店によって味やスタイルもさまざまですが、共通しているのは思わず「すみませんでした!」と謝ってしまうほどのボリュームのお肉。串刺しにしたお肉をグルグルまわし油を落としながら焼くので、しつこさが消え、思ったより沢山(たくさん)食べることができます。そしてお肉の塊を目の前でカットされるワクワクした瞬間―。野菜の酢漬けで作ったヴィナグレッチというヘルシーなソースをつけてサッパリ食べます。デザートは褐色のシュガーをまとった温かい焼きパイン。その甘酸っぱいパインを頰(ほお)張ると南国の太陽の香りがしてきます。

 都内だとシュラスコは高級ディナーという感じで表参道や丸ビルでオホホと言いながら、食べるたびにナプキンで口元を拭(ふ)くイメージですが、大泉町近隣ですとランチ・ディナーも二千円前後で食べることができます。食べ放題なので安く、満足感は「もう当分お肉は見たくない」というレベルです。

 大泉町では毎週末、ブラジル人がリズムの渦の中、お肉にかぶりついています。先日、ブラジル人の友達の誕生日会に呼ばれ、シュラスコを食べてきました。ライムのカクテルを飲み、テーブルには皆で作ったブラジル料理、延々と焼かれる岩山のような巨大なお肉、心地よいサンバ。ブラジル人は初めて会った人も友達もみんな親友のように乾杯を交わし、気遣いを忘れません。通りがかりの日本人に片言で「食べる?」と話しかけ、ギョッとされることもしばしば。たまに優しい方が味見してくれて「おいしい!」と言ってくれたら、皆ご機嫌。問題ばかりだといわれる外国人密度の高い町でも、ほのぼのとした景色はあるのです。大泉町は楽しい町です。

 最近、私はイベントなどで毎週末、都内に出かけているのですが、そこにはブラジルが好きで仕方ない日本人の友達が沢山います。彼らに会うたびに、ポルトガル語に朝から晩まで触れられる環境やブラジル人たちと遊べる時間、そして安くておいしいブラジル料理を気軽に食せる日常を羨(うらや)ましがられ、ため息交じりに「大泉、いいよな」と言われます。彼らが大泉町を思う気持ちは、会えそうで会えない恋人を想(おも)う愛情と一緒です。悲しい現実に目を瞑(つむ)っているわけではなく、みんなが愛してやまないこの町の良さを、地元の方々にポジティブに伝えていきたいです。




(上毛新聞 2008年12月23日掲載)