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弁護士 上野 俊夫(館林市本町)



【略歴】中央大第二経済学部卒。2002年、司法試験合格。都内の実家を離れ、母のふるさと群馬の法律事務所に入所。08年4月、司法過疎解消を目指し、館林市で開業。



交通犯罪



◎遺族らの苦悩知って



 約一年半前、十九歳の息子を交通事故で亡くした両親から相談を受けた。その事故は、息子がオートバイで直進していたところ、T字路を右折しようとした加害者の自動車と衝突したというものである。警察の作成した実況見分書によれば、自動車側の右折は強引なものに思えた。ただ、警察の鑑定書では、オートバイ側にもスピード違反があったとされていた。このスピード違反が重視されたのか、加害者の刑事罰は罰金刑であった。私への相談は、「罰金刑では納得いかない、何とかならないか」ということであった。十九歳の息子を亡くした両親の心情を考えると、私としても十分共感できた。

 両親といろいろ話し合い、結果として、加害者に対し民事で損害賠償の裁判を起こした。この裁判での一番の争点は、事故の過失割合であった。

 相手方にも代理人として弁護士が付き、約一年かけて裁判をした。途中、両親には法廷で、息子を亡くした苦しみを語ってもらった。被害者には、将来整備士になりたいという夢があった。事故が起きたのは、就職を希望していた会社で面接があった直後のことだった。法廷で涙をこらえながら気丈に話す母親の姿を今でも鮮明に覚えている。

 そして、つい最近この事件の判決が出た。一番の争点である過失割合について、納得できる内容であったので、代理人弁護士としては安堵(あんど)した。ただ、納得できる判決が出たとはいえ、結局は「相手方は遺族にいくら支払わなければならない」という「いくら」が高くなったか安くなったかにすぎない。弁護士として最善は尽くしたが、自分にできることは損害賠償額を少しでも高くすることだけなのかと無力感を覚えた。

 判決書を受け取り、判決内容を両親に説明した。両親は、判決内容を聞いて安心した顔をしてくれた。ただ、結局は金銭で終わらされてしまうのか、という虚しさも感じたのだと思う。両親は、亡くなった彼の死を背負って生きていかなければならない。

 交通事故は過失による犯罪であり、刑事事件における加害者の量刑は軽い。また民事事件においても、結局は金銭による解決ができるのみである。その賠償金は保険で支払われる。加害者は、後は免許取り消しなどの行政処分を受ければ、事故の法的責任をすべて果たすことになる。その一方で、愛する人を亡くした遺族の苦しみは一生続く。

 われわれは自動車を日常的に使用し、自動車からさまざまな恩恵を受けている。しかし、その恩恵は、被害者や遺族の苦悩と背中合わせであることを、忘れてはならない。






(上毛新聞 2008年12月4日掲載)