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染色美術家 今井 ひさ子(前橋市総社町)



【略歴】兵庫大短期大学部デザイン科卒、同大染色研究課程修了。県美術会理事、光風会評議員。上毛芸術奨励賞、県美術展山崎記念特別賞など受賞。県立女子大非常勤講師。



身近な草木や花



◎楽しみたい自然の余韻



 第二十五回全国都市緑化ぐんまフェアが三月二十九日から六月八日まで、二カ月半にわたって開催されました。

 「交流」「文化」「健康」「環境」というそれぞれのテーマの実現に取り組む前橋、高崎、伊勢崎、太田の各市と他の市町村では既設の公園や民間施設等に百五十五カ所の会場が設けられました。そこには工夫を凝らした花壇が誕生し、ボランティアも含めた広範な県民参加による緑化活動が行われました。

 フェア期間中、会場には色とりどりに咲く花が美しさを競い、人々の笑顔があふれているように感じました。この緑化活動の実践を通して、多くの方々が郷土の美しさを再発見したのではないでしょうか。

 民間の施設の活用、公園や街路樹の整備など、緑化活動の取り組みが一過性のお祭りで終わってしまわないためにも、会場となった公園や施設が新たな名所となっていくよう、引き続き地域の活動として取り組んでいきたいものです。

 花を身近に感じ、共に生活を送るある日のこと、訪れた県外の画廊で花弁の一枚一枚が異なる色に染め分けられ、七色の花になっている一輪の薔薇(ばら)の花を見ました。驚くことに、他のテーブルには七色の葉の植物が生けてありました。少し枯れかかっていたので生花です。

 染色家は天然染料を使用する時、植物の色を分けてもらい、自然の余韻を楽しむものですが、逆のものを目にすることは珍しく、興味を持ちました。

 観賞用としては華やかで、人目をひく色に染色されているようですが、この花も、葉も本当の色はどんな色をしていたのでしょうか。命ある植物としての本来の美しさが隠れてしまうのは何だか痛々しく、寂しい気がしました。

 野原や道路、自宅の庭などで夏になれば夢中で抜いている雑草。荒れ地に生えているセンダングサやススキ、つる状に伸び広がるクズ、河原に咲くオオマツヨイグサ、生け垣として用いられるイチイの木やドウダンツツジ等々、私たちの生活の身近にある草木の花や実を観察すると、華やかさには欠けますが造形的で楽しい形であったり、自然のままの淡く柔らかな色調であることに気が付きます。

 計算された人工的造形物の美しさに感嘆することも多いので、必ずしも自然のままが良いとは思いませんが、生花でありながら七色に加工された薔薇の花びらと葉を見た日から、身近にある見慣れた草木や花の美しさを探すようになりました。

 一日のほんのわずかな時間を割いて、家の周りをゆっくりと歩いてみてはどうでしょうか。「世界に一つだけの花」を実感できるかもしれません。






(上毛新聞 2008年12月3日掲載)