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◎「無い」は素晴らしい 世界には、文化や風土、民族の歴史を土壌として、人々の感覚に入り込む映画作品が、たくさんあります。それらは、台詞(せりふ)からの説明的映像ではなく、一人一人の感覚で受け止め考える、画像の力のあるものです。一つの大きな画面に向かって、子どもと大人が一緒に暗闇の中で見る。暗闇の中だからこそ、未来の、行(ゆ)く方(かた)の明かりが見えるのです。 昨年度、中野東小が県の「映像教育実践協力校」になって以来、邑楽の子どもは映画を見ることで、実に多くの感情を受け取ることを知り、映画を見る眼(め)が育ちました。このような中で有志が実行委員会を組織し、「地域の子ども、大人たちが夢をふくらませ映像によって心豊かな感性を育(はぐく)めるように」と、県の「地域における映画上映推進事業」に応募。願いかなって先月三日、「邑(むら)の映画会」を実現することができました。 子どもが駆け回る体育館が映画館に変わり、バンダナを頭に子ども映像スタッフ、大人支援スタッフ、多くの人がかかわり作り上げた邑の映画会。五百人満員の会場。世界の選(え)りすぐられた多様な映画の選定と、フィルムのカラカラ回る音。三百インチの本格的大型スクリーンを七メートルの高さに立ち上げた、私たちの心を込めての上映は、皆さま一人一人の気持ちとつながったのだと思います。 「無い」ということは、素晴らしい。邑の映画会は、映画館も無い、ホールも無い、こんな映画会やったことも無い、そんな町に立ち上がった手づくりの映画会です。試行錯誤の連続でした。でも、「信念は曲げない」。これでいい。「いい映画をとどける」 当日の朝は「やるべきことは、やりました。今日は、自分のできることで皆さまをお迎えいたしましょう」と、会場での子ども映像スッタフの瞳の輝きと、できることを見つけての仕事ぶりは、映画とともに多くの方の共感を呼びました。これはまさに、「おとなが見まもる 子どものまなざし」です。私たちは、ちょっとの知恵を出し、子のまなざしの行く方を見まもる。これでいいのではないでしょうか。選ばれた作品は、「白い馬」「花折り」「木を植えた男」「赤い風船」「泥の河」。生きていく日常の生活の中での、子どものまなざしを通して、大切なものは何なのかを、もう一度考えようとしたのです。 小栗康平監督は、講演で、「映画は先行した芸術を詰め込んでいる。いい映画を見れば画像が優れているから、子どもたちは発見する。映画館の無い邑楽町でも、努力すればこんな素晴らしい映画会ができる。続けていきましょう」と。 「邑の映画会」は、町・人・知恵のつなぐ“手”で、つくり、続けていく映画会です。地域からの、さらなる大きな広がりを願っています。 (上毛新聞 2008年12月1日掲載) |