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◎お年寄りの目線考えて 群馬に単身赴任中の中年サラリーマンである。前橋市は広瀬川のせせらぎが聴こえる風情溢(あふ)れる環境に浸って早二年余。でも引っ越してきた時はてんやわんやだった。 二年前の猛暑七月、私は東京から群馬にやってきた。引っ越し荷物と格闘しているうちに夕方になった。それじゃ灯(あか)りでもつけて作業を続けるか…と思って天井を見上げると、「うっ、カサがない」。 そう灯りのカサがない。 当然のことながら電球もねえ(吉幾三を気取っている場合ではない)。準備していない私が悪いのだが、慌ててマンションの管理人に電器屋の所在を聞いた。「○○電機(有名な大型家電小売店)が近くにあるよ。車で五分くらいだから」と即答。 皆さんなら「車で五分=便利」だろう。クルマ社会だから。実は単身の私は車を持っていない。従って「車で五分」と言われ途方に暮れる。 「歩いていける近所の商店街に電器屋はないですか」。私はすがる思いで聞いた。「近所ねえ。昔はあったと思うけどねえ」。残念ながらこれが答えであった。 仕方がない。商店街をあっちゃこっちゃ歩き続ける。どうにか電器屋さんを見つけたころにはおてんとさんも沈みかけていた。 奥の倉庫らしきところから取り出してもらった、ちょいと昭和のにおいのするデザインのカサを、でもありがたく、買った。車を持っていない私には近所の商店街がいざという時に頼りになることを痛感した。 一人当たりの車保有率全国一位を誇る群馬では私のような存在は少数派であろう…が、ふと思った。これからクルマを「卒業」してしまうお年寄りがもっと多くなったらどうするんかと。歩いていける距離―だけの問題ではない。亡くなった私のばあちゃんが言っていた。 「大型スーパーはどこに何が置いてあるか年寄りには分からなくて…」 ばあちゃんは、近所に大型スーパーができても、頑(かたく)なに近所の商店街で買い物を続けていた。これからもっと増えるであろうお年寄りの目線で考えると商店街の復活は急務なのかもしれない、とふと思ってしまう。 その際考えなくてはならないことは何か。かつて愛妻が言っていたことを思い出す。 「たとえば、薬の説明書。字が小さいじゃん。薬を買ったお年寄りに拡大コピーして渡したら、商店街の個人商店だってもっとウケるんじゃないかなあ」 相手の目線を徹底的に大事にして知恵を尽くす…ということかもしれない。 (上毛新聞 2008年11月28日掲載) |