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拓殖大政経学部准教授 茂木 創(東京都文京区)



【略歴】太田市出身。慶応大大学院修了。専門は国際経済学。2006年に財務省派遣の中国社会科学院客員研究員を務める。日本マクロエンジニアリング学会理事。


外国からのリスク


◎海に代わる緩衝機能を



 「海外旅行」と聞くと、われわれの多くは「外国旅行」を思い浮かべる。思えば、これは海洋国家独特の発想である。

 周辺を海に囲まれたわが国には、古(いにしえ)の時代より、海から多くの恵みがもたらされてきた。文字、道具、生活様式、習俗、通貨、制度など、外来のものがわれわれの生活を豊かにした例は枚挙に暇(いとま)がない。

 同時に海は、外国で生じた危険(リスク)からわれわれを守る巨大な掘割としても機能してきた。海は対岸で生じた災いを水際で防ぐ緩衝材としての役割も担っていたのである。海があるがゆえに、大陸の災いが伝播(でんぱ)するまでに経済的費用が発生し、被害が最小限に抑えられてきたといってよい。

 一九八五年のプラザ合意以降、急速な円高を背景として、わが国は海外に生産拠点を設け、直接投資、貿易を通じて世界との依存関係を深化させていった。その結果、移動時間や経済的費用は削減され、容易に海を越えることができるようになった。国際分業の進展に伴って、外国製品はわれわれの生活の重要な部分を占めるようになった。しかし、グローバル化によって、海のもつ緩衝機能は失われ、リスクも容易に伝播するようになった。

 今日、いわゆる米国のサブプライム住宅ローン問題に端を発する連鎖的な金融危機が引き金となって、わが国の株価や為替が不安定な動きを示している。グローバル化時代の負の側面が浮き彫りになった形だ。わが国金融機関への直接的な影響は少なかったといわれているが、実体経済への影響が顕在化するのはこれからである。欧米の株価や信頼が低下して自国通貨を減価させれば、今後、円高によるわが国輸出産業への影響は計り知れない。

 国際通貨基金(IMF)が今月六日に発表した「世界経済見通し」の改訂版によれば、二〇〇八年度のわが国の経済成長率は0・5%にとどまり、〇九年度にはマイナス0・2%まで鈍化することが予測されている。また、経済産業省が先月十五日に発表した「鉱工業指数」(〇八年八月分確報)をみると、輸送機械工業、一般機械工業などを中心として、生産、出荷、在庫、いずれの数値もマイナス成長となっている。

 もっとも、円高には輸入品価格を相対的に安価にする効果もある。流通の発達で、輸入品の入手が容易になった今日、円高は消費者にとって喜ばしいことかもしれない。しかし、海を容易に越えることができるようになった今日、さまざまな海外からのリスク―金融危機、食の安全性、原油をはじめとする資源高騰など―が、われわれの生活を脅かしている。グローバル化時代を迎え、海に代わる新たなリスク浄化のシステムの構築が望まれる。





(上毛新聞 2008年11月27日掲載)