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臨床美術士 高庭 多江子(伊勢崎市今泉町)



【略歴】伊勢崎市内の特別養護老人ホームに14年間勤務。2003年から臨床美術を学び習得。現在も月2回東京で受講しながら、ボランティアでお年寄りに指導を続けている。




アートセラピー


◎認知症への効果知って



 私が臨床美術に出合ったのは、二〇〇二年八月に上毛新聞に掲載された記事を通してだ。認知症を早く見つけ症状を遅らせようとする「もの忘れ外来」が全国的に普及。筑波大病院の朝田隆教授(精神医学)は臨床試験(治験)段階の薬を積極的に使い、造形美術療法(アートセラピー)による脳のリハビリも取り入れているという内容で、さらに造形美術療法協会(臨床美術協会)が発足。この療法を始めた芸術造形研究所の故金子健二さんは「芸術は人を癒やす。認知症と診断され元気を失った人の心に灯(あか)りをともしたい」と。また、「造形美術療法士(臨床美術士)の認定も進める」とあった。

 心の中に「これだ」と感じた。日々の介護の仕事と介護支援専門員の兼務を、多忙の中で目標も持たずに続けるには、ストレスが大きく疲れすぎている。心の開放のため自分に合っている、これからの私にできることだ、と思った。

 翌年五月、造形美術研究所の説明会に行き、そこでアートセラピーとは、絵画、彫刻、陶芸などのアートを楽しみながら脳を活性化し、症状を改善していく療法だと知った。国立精神神経センター武蔵野病院の研究で、芸術造形研究所のアートカリキュラムによるこのアートセラピーは、認知症の予防と治療に有効。つまり、芸術を創作するエネルギーは私たちの心を癒やし、刺激し、心と脳を活性化させる。豊かに暮らすためにとても有用な方法なのだ。

 自分の日常の生活から離れて、外側から自分を見つめ直すことができる。講習を通して、素直に自分の感性を表現し、熱中する時間の大切さを感じた。介護もアートセラピーもお年寄りに寄り添う心は共通。自分を大切にできなければ、思いやりも生まれてはこない。そう気付いて以来、月に二回、東京へ通いアートセラピーによって感性を磨き、ストレスの解消、自分の解放ができたのである。

 現在、月一回行っているケアハウスのボランティアは、同僚が私からアートセラピーの話を聞き、ケアハウスの教室に介護予防として取り入れたらとの意見が一致し、二人三脚の試行錯誤でスタートした。

 私も初めて、お年寄りも初めて。「レモンのネガポジ画」を描いたのは初めてだった。レモンの香り、色、味覚、手触り、形を観察し、墨とオイルパステルを使い、時間を忘れて熱中し創作。作品の鑑賞会では他の方の作品に感心して頷(うなず)きあい、「自分の作品はメロンパンになった」などと言う和気藹々(あいあい)の雰囲気の中で終わる。「アートがこんなに楽しいなんて知らなかった」と、お年寄りは毎月楽しみに笑顔で待っていてくれる。こうしたアートセラピーを多くの人に知ってほしいと思うのである。






(上毛新聞 2008年11月25日掲載)