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◎モンゴル遊牧民に学ぶ 今年八月に大相撲の巡業が行われたモンゴルは、歴史的に見れば遊牧民が暮らしてきた世界です。巡業の時にテレビに流れた青々とした草原の映像をご記憶の方も多いかと思われますが、遊牧民が暮らすこうした草原は秋になると草が枯れ、冬になると雪に覆われることになります。 こうした四季の変化の激しいモンゴルの草原に遊牧民はゲルと呼ばれる簡素で移動可能な住居を建てて暮らしています。ゲルは木製の骨組みとそれを覆うフェルトを組み合わせて建てられる、内部の直径五メートル前後、高さ二・五メートルほどの円形の天幕です。遊牧民は夏でも冬でも一年のほとんどをこのゲルで過ごします。彼らのゲルは基本的に「オールシーズン用」で、冬季には天井や側壁のフェルトを増やすこともありますが、越冬用の特別なゲルがあるわけではありません。そしてまた、彼らが寒いところに暮らしているからといって、彼らの体が特別に寒さに耐えられるようにできているわけではありません。では、彼らは、こうした簡素なゲルでどのように冬を越しているのでしょうか。 モンゴルの遊牧民はゲルの建て方やゲルを建てる場所を変えることで、季節の変化に対応してきました。 まず、ゲルの建て方ですが、夏には風通しを良くするために、ゲルの周囲の裾(すそ)のフェルトと地面の間には隙間(すきま)が開いているのに対して、冬には隙間風が入らないようにゲルの周りに土を盛って目張りをします。こうすることで、ゲルの内部の保温効果が高まります。夜、ゲルの真ん中にある「ゾーフ」と呼ばれる竃(かまど)兼暖炉に、牛糞(ふん)を乾燥させた燃料で火をたいてゲルの中を暖かくしてから床に就くことになりますが、これによって明け方まで持ちこたえることができます。 また、ゲルを建てる場所が、夏と冬では大きく異なっています。モンゴルの遊牧民は、夏には風通しの良い場所にゲルを建てますが、冬には日当たりがよく、風を防ぐことができる場所、例えば山の南斜面や山谷にゲルを構えます。余談ですが、彼らが話すモンゴル語では、山の南斜面を「ウブル」、風を防ぐことができる山谷を「ジャラカ」というように、冬を越すのに適した比較的暖かい場所を特別の語彙(ごい)で呼び分けることができます。 このように、モンゴルの遊牧民はゲルの建て方やゲルを建てる場所を変えることによって厳しい冬の寒さに対処しています。二十一世紀の日本に暮らす私たちが、モンゴルの遊牧民の暮らしをそのまま、まねることは現実的ではありませんが、彼らの寒さ対策の知恵から学ぶことがあるかもしれません。 (上毛新聞 2008年11月21日掲載) |