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◎親たちへ送ったエール 二〇〇八年春に公開された映画「チェスト!」は、鹿児島の錦江湾横断遠泳に挑戦する小学生たちの物語だ。上映後、さまざまな感想が寄せられたが、中でも目を引いたのは、子育て世代からのこんな声だった。 「遠泳を通して子供とともに親も成長し、大人同士の絆(きずな)を深めあう。自分もこうありたいと強く感じた」「子供向けと紹介されているがむしろ親たちに観(み)てほしい映画だと思った」 多くの人に意図を受け止めてもらえて嬉(うれ)しかった。脚本を担当した私自身、この映画は、未来ある子供たちと同時に、親たちへのエールのつもりで書いたからだ。 私は今四十一歳だが、この年代は、子育てに特に自信を持ちにくい世代だと思う。社会に出た当時はバブルの最中。それが数年ではじけ、結婚し子供を持つころには長い不況に突入している。ほんの短い間に価値観はまさに激変した。激変は子育てに関しても同じである。詰め込み教育への反省から、ゆとり教育が試されたものの、後にそれはゆとりではなく「ゆるみ」だと指摘され、今、また方向転換がされようとしている。 子供に「がんばれ」とも言いづらくなった。まわりのあらゆるものが飽和状態で「伸びしろ」がどこにも残されていないと感じられる現在、「頑張れば必ず報われる」と胸を張って教えることには躊躇(ちゅうちょ)を覚える。誠実に頑張ろうとする人が、ずるい人間に搾取される構造も最近では数多く目につく。 こんな時代に、親は子に何を言ってあげられるのか? どういった指針で子育てをしていけばいいのか。そんな迷いの真っただ中で私はこの「チェスト!」のモデルとなった、鹿児島の小学校の活動に出合ったのだった。西郷隆盛、大久保利通といった多くの人材を生み出した薩摩伝統の「郷中(ごじゅう)教育」の精神をベースに、泳ぎの得意な子が不慣れな子を励まし助け、全員で四・二キロの海を泳ぎきる。大人が子供を導くのではない。子供は子供同士で伸びあい高めあう。大人はただその「場」を作り、支えることに全力を注いでいた。 今、多くの母親が「子は親の通信簿」とばかりに追い詰められ、孤立している。そんな状況を少しでも変えたい。子供にとって好ましい「場」とは。「仕組み」とは。映画「チェスト!」がそれを探すための一助となれれば幸いである。 (上毛新聞 2008年11月20日掲載) |