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書家 小倉 釣雲(前橋市上新田町)



【略歴】本名・正俊。東京学芸大書道科卒、同専攻科書道修了。県内の各高校で書道を教える。毎日書道展会員、県書道協会理事・事務局長、上毛書道30人展運営委員長など。



夢の書道会館


◎空き教室の活用で…


 「蝋涙」。こんなことばを知っていますか? 「ろうるい」と読みます。意味は広辞苑によると「蝋燭(ろうそく)から溶けて流れ落ちる蝋を涙に見立てていう語」とあります。最近の生活では“ローソク”のお世話になることはほとんどありませんが、私が子供のころは時々停電があり、瞬時に家中が暗闇となりました。すかさず母が戸棚からローソクを取り出し、マッチで火を付けます。ポッと何とも言えぬ明るさ、温かさが家の中に戻りました。ローソクはその身を燃やし、涙とすることで周りを明るく温かくしていたのです。

 私が日ごろ使っている「墨」はどうでしょうか。墨匠が丹精して作り出した作品だと思います。その制作は繊細な心と時間を要するものです。仄(ほの)かに燃える灯火(ともしび)から煤(すす)を集め、煤の粒子を選(え)り分け、膠(にかわ)と練り上げ、型に入れ成形し、乾燥させ、磨き彩色し、ある意味では墨自体が芸術作品となります。しかし悲しいかな墨の宿命は、「硯(すずり)で磨(す)られ墨液とされ紙の上に造形芸術として再現される」ことです。ローソクと同じく身を削り失ってこそ、その存在が生かされるのです。そういえば大学一年の授業で故田辺古邨先生が「墨を惜しむこと金の如(ごと)く」とおっしゃったのは、書法上の意味もさることながら物への愛惜の教えであったかと、この年にして理解できます。

 この秋、来年三月で閉校となる前橋東商業高校へ社会人講師として赴きました。学校は前橋市(旧大胡町)の高台にあって、北は目の前、手の届くほどに赤城鍋割があり、南は前橋から高崎市街までが遥(はる)かに広がります。この素晴らしい環境を生かし、書道人積年の夢「書道会館」の設置構想を頭に描いてみました、図面ではまず職員室は「書道協会事務局」。一年の各教室は文房四宝の部屋。一組は「筆」、以下二組「墨」三組「硯」四組「紙」など。二年の教室は郷土書作家の部屋。一組は「米庵」から始まり、二組「大謙」三組「春来」…。三年の教室は小展示室と学習研修室。大体育館は大展示場、広いグラウンドは駐車場に。

 平成の大合併で自治体の施設の再利用が検討されています。また少子化の影響で小中学校から高校までもが統廃合のため空きとなります。甘楽町の閉校校舎を産経国際書会は研修館として開設活用しています。みどり市(旧勢多東村)ではサーカス学校となった小学校もあります。再利用について一般公募してみるとか、自治体関連の団体に運営や企画で参加させるとか、幅の広い有効利用を考えてほしいものです。




(上毛新聞 2008年11月5日掲載)