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◎スポーツとして楽しく 二○一二年度の新学習指導要領の実施にともない、中学校の保健体育で、武道が必修化される。これまで男子のみに選択で設定されていたものが、男女ともに必修となる。新しい教育基本法の第二条(教育の目標)5項「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」に基づき、武道の学習を通じて、わが国固有の伝統と文化に触れるようにするために取り入れられるものである。 武道は他のスポーツに比べ、特別視される傾向が強い。今回の武道必修化の発表後もさまざまな意見が交わされている。「礼儀正しくなる」「忍耐強くなる」と肯定的にとらえるものもあれば、「けがが増えないか」「乱暴な振る舞いにつながらないか」などの心配の声も聞かれる。また、偏った精神主義につながらないかと危惧(きぐ)する意見もある。「武道」の持つ精神性や神秘性を、あまりに重要視し、授業内容に対して過度な期待があることも確かだ。 武道の源は対人的な格闘技術としての武術であり、戦前の武道教育は、軍事教練的な要素を色濃く残していた。ただ、今回取り入れられるのは保健体育の授業としての「武道」である。それは、やはり教育基本法の第二条1項にある「健やかな身体を養うこと」のために取り入れられるものだと思う。この目標の実現のために、日本古来の伝統文化である「武道」が活用されるのである。他のスポーツと異なる固有の動作や作法はあるが、あくまで「体育」なのだ。 また、今回の導入では、授業数を多く取っても年間五―六時間程度、二年分をまとめて一学年で履修しても十二時間程度の授業となる。必然的に授業内容は、初歩の動作を経験する程度になり、大きなけがの発生や技の乱用につながることもないはずだ。 逆に言えば、武道の持つ本質を伝えるにはあまりに時間数が少ない。まして偏った精神主義に陥ることも考えられない。過度な不安や期待を持つことなく、さまざまなスポーツの一分野として、武道が採用されたととらえることが妥当であろう。 今回の必修化において重要なことは、武道の生い立ちや本質はどうであれ、中学生たちにまず武道に触れてもらうことに意味があると、武道に携わる者の一人として考える。武道を特別なものとしてではなく、誰でも学ぶことのできるスポーツとして、楽しんでもらえればよいのではないか。多くの中学校でさまざまな武道の授業が実践され、中学生たちが触れることで、そのすばらしさに気づき、さらに深く学ぼうとする生徒が出てくることを期待する。武道は決して特別なものではない。 (上毛新聞 2008年10月30日掲載) |