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◎記憶呼び覚ます介護を 先月中旬に機会があって、地元で子供たちがお世話になっている書道の先生、鈴木華鳳さんの教室の第一回書院展を見ました。 華鳳さんは、太田市と大泉町に三十数年の間教室をもち、書道の指導と啓蒙(けいもう)をされている方です。 会場に入ってびっくりしたのは、一般の部や趣味の会の部、小学生・中学生・高校生たちの学生部に加えて、ケアハウスすいれんや介護老人保健施設ふじあく光荘の方々十八人の作品が展示されていたことです。 また、展示期間中は、施設の職員の方々が出品者を車いすなどで会場まで連れてきて、それぞれの作品が展示されている様子を見せてくれていたと知ったことです。 作品を拝見すると、失礼ながら、中には健常者以上に筆に覇気と若さがあり、書に対する情熱がわき出るような素晴らしい作品もありました。 聞くところによりますと、出品予定者は月に一回ほど施設で、スタッフの方々から熱心なサポートを受けて練習をするようです。スタッフの方々は墨を用意したり、書きやすいよう縦横に配慮しながら一字ごとに用紙を動かしたりするとのこと。まさに一心同体の練習です。 最近は、高齢で障害をお持ちの方々に対し、音楽療法を行うといったことを聞いたりします。 ある保育専門学校では、高齢者が若いときに耳にした演歌やナツメロを学生にマスターさせ、二十曲以上歌えないと単位を与えないということも聞きました。高齢者が若く元気なころの視聴覚や思い出を呼び戻すことが効果的だということなのでしょう。 今回、書院展のための作品を制作しているところは拝見できませんでした。しかし、施設の方々はたぶん、入所者が若かりしころ、元気だったころに親しんだことで体や脳のどこかにしまわれていた、あの書道の墨の香りや筆の走りの感触を呼び覚ましてあげるべくサポートをされたのではないかと思います。 入所者のほうも、懐かしく思い出しながら筆を走らせていたのではないでしょうか。 これまでいろいろな施設を見学したり、創意工夫されている施策に触れたりしてきましたが、この一心同体の書の制作はとても斬新で、新鮮な印象を強く受けました。 介護の一線で奮闘努力されている方々、また、これから介護の世界に人生をかけようと勉強されている学生の方々。この書院展は毎年開催されるとのことですので、ぜひ一度ご覧になってください。 墨の香りと思い出―。高齢者介護の一つの在り方としてご検討いただければ幸いです。 (上毛新聞 2008年10月5日掲載) |