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◎渡良瀬川流域見直そう いま、世界遺産登録への運動が盛んである。 栃木県では、産業遺産や公害対策の起点として「足尾銅山」(日光市)と、欧州や東アジアとの文化交流などをアピールした「足利学校と足利氏の遺産」(足利市)の二件の国内暫定リスト入りを目指し、運動が進められている。 群馬県においては「富岡製糸場と絹産業遺産群」が既に国内暫定リスト入りをしている。そのほか現在、世界文化遺産の暫定リスト入りをしているのは、平泉の文化遺産(岩手県)、富士山(山梨・静岡県)、古都鎌倉の寺院・神社(神奈川)など八候補である。 さらに、暫定リスト入りを目指して文化庁に提案書を提出している団体は三十三件にも及んでいる。 最近の動向を見てみると、「石見銀山遺跡とその文化的景観」(島根県)が、一時「登録延期」を勧告されたが、二○○七年七月に世界遺産登録がなされた。 ○一年に既に暫定リスト入りをしている「平泉の文化遺産」は、今年七月、登録延期の決定がなされた。 このことは、世界遺産登録を目指して運動を展開している関係団体にとって厳しい状況と言わざるを得ない。 世界遺産登録への最大の難関は、「普遍的価値の証明」である。いかにその遺産が世界的であるかを証明できる資料をそろえることができるか。さらには、これまで提出されている「提案書」の見直しが必要であろう。 「足尾銅山」も「足利学校」もさらなる戦略が求められることになる。 さて、世界遺産登録への道のりが険しい中で、渡良瀬川の流れを通じて「もう一つの世界遺産」運動を考えてみてはどうだろうか。 源流地域に「足尾銅山」があり、中流地域に「足利学校」や「絹遺産群」がある。下流地域には「渡良瀬遊水地」があり、ラムサール条約登録運動が盛んである。 渡良瀬川流域に生まれた固有の産業、文化、自然を関連づけて「もう一つの世界遺産」運動を展開できるのではないだろうか。足尾銅山や足利学校の世界遺産登録への運動にも役立つのではないかと思う。 さらには地域の連携が図られ、地域の活性化にも繋(つな)がるだろう。 戦後、わが国は驚異的な経済発展を成し遂げ、世界の先進国の仲間入りをした。 私たちは、豊かな生活を送る中で、経済活動や自己を優先した結果、人と人との絆(きずな)が希薄になり、失われたものも少なくはない。 歴史を振り返り、現在の社会生活を見直すことも必要ではないだろうか。 市民と行政とが手を携えて渡良瀬川流域地域連絡会議といったような組織を立ち上げ、渡良瀬川流域の歴史を振り返るとともに、明日の地域社会を考えることができればと思う。 (上毛新聞 2008年9月29日掲載) |