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群馬大大学院工学研究科教授 片田 敏孝(桐生市末広町)


【略歴】岐阜県生まれ。群馬大大学院教授。災害社会工学を専攻。災害時の情報伝達や住民避難の問題に取り組み、国内、海外の災害現場で研究活動を行っている。



局所的集中豪雨

◎防災の基本は自助



 集中豪雨が全国各地で頻発している。栃木県では軽自動車が浸水個所で水没し、悲痛な携帯電話を最後に主婦が犠牲となった。神戸の都賀川では、わずか十分の間に降った集中豪雨で一挙に増水した河川に、五人の幼い命が奪われた。

 明らかに気象に良からぬ変化が起きていることを実感せざるを得ない集中豪雨の頻発。気象観測の編み目にすっぽり入ってしまうような極々(ごくごく)狭い領域に、かつて経験したことのないような雨が降り、あっと言う間に事故が起こる。神戸の都賀川は、わずか一七九〇メートルしかない小さな河川である。その狭い流域に猛烈な雨が降り、川の水位は瞬時に一三四センチ上がったという。現場の監視カメラがとらえた映像には、穏やかな流れの小川が映り、子供たちが水遊びを楽しんでいる。しかし、その二分後の映像には、激しい雨に画面がかすみ、そこに一挙に濁流が襲う様が映し出されている。

 地球温暖化が進むとこのような局所的集中豪雨が多くなるといわれている。暖まった海面や地表からは多くの水蒸気が立ち上り、暖まった空気に多くの水蒸気が溶け込む。暖まり湿った空気は上昇気流となって立ち上り、豪雨をもたらす雲を発生させる。こうして地球温暖化は、明らかに豪雨の基本要因となる。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、人類の活動が地球温暖化の直接的原因であることを断言した。そして無策のまま二十一世紀末を迎えると地球の平均気温は四度程度上昇するという。

 洞爺湖サミットなどで議論された対策が功を奏したとしても二度程度の気温上昇は免れないことも指摘されている。

 これが実際に起こるとするなら事態は深刻である。冬場が暖かく、夏が異常に暑い。これは誰もが感じる近年の生活実感であろう。しかし、これほどの生活実感として感じる地球温暖化も、北半球の平均気温では、最近の百年間でわずか一度の上昇に過ぎない。それが二度だ四度だと上昇すれば、事態は深刻である。

 当然、従来の防災施設も機能を十分には果たさなくなる。国土交通省は、百年後の年間雨量を今の一―三割増し程度と想定している。仮に一割増しであっても、百年に一度程度降るか降らないかの大雨を想定して造られた防災施設は、五十年に一度程度の防御レベルに低下し、二割増しなら、それが二十―四十年に一度と大きく低下することが指摘されている。

 明らかに行政主体の防災が破綻(はたん)する。自分の命を守るのは、昔も今もやはり自分である。行政の防災は一層の推進が望まれるが、行政が人為的につくった安全は、住民の行政依存意識を高めるとともに、災害対応力を低下させる。防災の基本は自助にあることを再確認したい。






(上毛新聞 2008年9月5掲載)