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◎夢のソーラーシステム 九月の声を聞いてほっとする。子供のころは、夏休みがあったせいかもしれないが、一番好きな季節が夏だった。就職してからも、われわれ林業人にとって一番過酷な労働といわれる炎天下の下刈り作業で、ろくな水分補給をしなくても熱中症にもならず、暑さをたいして苦にしなかった。それなのに最近はめっきり暑さに弱くなった。年のせいか、地球温暖化の影響なのか―。わが家では温暖化防止のため、努めて冷房は我慢するようにしているが、やむを得ず幾夜かはエアコンのスイッチを入れた。 炎暑の大敵はアスファルトの舗装道路であるが、街路樹などが繁って連続した木陰ができているところは涼しい。日なたより気温が二度ほど涼しいと聞いたことがあるが、樹木の葉は陽光を遮断するだけではなくて、その一部をエネルギーとして光合成を行い、水と空気中の二酸化炭素を炭水化物(植物体)と酸素に変換している。日傘と違って心地よい木陰の涼しさは、このおかげだろう。 森林の中では樹木はちょっとの陽光も逃すまいと、貪欲(どんよく)に、必死に枝葉を広げる。それも平面的にでなく空間的に幾層にもわたって。樹種によって枝葉ののばし方には個性があるが、それは他種との競争の中で進化し、多種が共存するために必要なことだった。森の社会も生き抜いていくことは大変だ。 上層木の枝葉からこぼれた陽光を拾う中層木がいて、さらにそこからこぼれるわずかな光で生きていく最下層の草やシダがある。天然の森林は降り注ぐ陽光を余さず消費する方向に機能する。実に見事なソーラーシステムなのである。 このソーラーシステムによって生産され、気の遠くなるような長い年月をかけて地球に蓄えられた植物体が石油や石炭となったのであるが、これをわずか百年あまりで食い尽くそうというのだから、地球環境が変質しない方がおかしい。もっともそれとて惑星レベルでいえば自然の摂理なのかもしれない。人間も馬鹿ではないから、温暖化防止の努力は続けられると思うが、多くの国や民族の利害を乗り越えて人類共通の得失を論じることは至難である。 まあ、そんなこと愚痴っても仕方がないのだが、都会の上空にロープを巡らしてツタやクズをはわせればどうだろう。日陰にはなるし、葛根(かっこん)にはデンプンが貯(た)まる。ブドウにすれば食べられるし、ワインにもなる。そのワインで自動車も走れるかもしれない。光合成を行う葉緑体が人工で合成できれば、家々の屋根に張り、道路の舗装に仕込むことで、森林なみに効率よく陽光を利用する都市ができるだろう。 森林は、暑さにうなされた人間に、ちょっと誇大妄想的ではあるが涼しげな夢を見せてくれた。 (上毛新聞 2008年9月3掲載) |