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上武大ビジネス情報学部准教授 花田 勝彦(高崎市大橋町)


【略歴】京都市生まれ。早稲田大卒。エスビー食品を経て、2004年から現職。アトランタ五輪1万メートル、シドニー五輪5000メートル、1万メートルの日本代表。アテネ世界陸上マラソン日本代表。



五輪を見て

◎走ることは芸術だ



 今年の八月は例年に比べて雨が多かったように思う。お盆の時期に新潟県・妙高高原で駅伝部の合宿を行ったが、熱中症よりも雷雨のほうが心配だったほどだ。悪天候のおかげで、早朝には気温が一五度を下回る日もあって、涼しい中で練習をすることができた。主力選手に大きな故障もなく、無事合宿を終え群馬に戻ってきた。

 合宿時期に北京五輪が行われていたこともあり、宿舎のテレビではほとんど中継を見ていた。陸上競技では、女子マラソンの野口みずき選手をはじめ、故障による欠場や不調で本来の力が発揮できず、不本意な結果に終わった選手が多かったようだ。見ていて感じたことは、ここ数年で急激に世界のレベルが上がったということだ。男子マラソンを例にあげると、冬のレースと変わりない超ハイペースのレース展開となって、日本の二選手はまったく対応できなかった。思ったほどの暑さにならなかったこともあるが、真夏のレースでゴールが二時間六分台となるレースをされてしまってはお手上げだ。以前、シドニー五輪の女子マラソンで高橋尚子選手が優勝した際、大会に備えて標高三千メートルを超える高地でトレーニングを行っていたと聞いて驚いた。しかし、いまやそうした常識を超えた限界に近いトレーニングをやったとしても、日本人が世界では対等に戦えないレベルになりつつある。

 そういう中での男子四百メートルリレーの銅メダル獲得は快挙といえる。米国、英国といった上位チームが失格となったことも幸いしたが、日本チームがミスなくバトンをつないで力を出し切ったことが好結果につながった。とどまることを知らない世界のレベルアップに対応していくのは非常に困難なことだが、ベストを尽くせばわずかだがチャンスはあるという希望を与えてくれた。

 こうしたイベントは生で見るのが臨場感もあっていいのだが、最近は映像技術の進歩のおかげで、テレビで世界のトップアスリートの動きをいろんな角度から事細かに見られるようになった。陸上競技に限らず、どの競技でもメダルを獲得するような選手の動きには無駄がなく、また見る者を虜とりこにするような芸術的な美しさも兼ね備えている気がする。

 現役時代、瀬古(利彦)さんから「走ることは芸術だと思って誇りを持って取り組みなさい」と指導を受けた。そのころの私の目標は、レースに勝つことはもちろんだが、見ている人に感動を与えるような走りをしたいというものだった。自分自身がその目標を達成できたかはわからないが、これからは指導者として、ただ速い、強いではなく、観客を魅了するような走りを身につけた選手を育てていきたい。





(上毛新聞 2008年9月2掲載)