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◎人生や政策にも必要 私の趣味のひとつは囲碁です。奥深いゲームであり、また、囲碁には自由な発想で打てる楽しみがあります。将棋は、一旦(いったん)不利な状況になると挽回(ばんかい)が困難なことが多いですが、囲碁では自分が不利になった時でも、取られそうになった石をうまく捨て、その代償を別のところで取り返す「ふりかわり」という手法があります。人生と同じで、すべてを自分の思うとおりにすることはできませんが、相手との駆け引きで、有利な方を取ることができるわけです。 上達法には定石を学んだりプロの棋譜を並べるなどがありますが、最低「三手読み」を心がけなさいと教えられたことがあります。初心者は次に自分の打つ手(一手目)だけを考えることが多いですが、上級になってくると、自分が打った手に対して相手がどこに打ってくるか(二手目)を考えながら自分の打つ手を選ぶようになってきます。 さらに上達するには、自分の手に対して打たれるであろう相手の打つ手に対して、自分がさらに有利になるような手(三手目)が打てるかまで判断して次の手を選択することが重要になります。一手目、相手の手、三手目がそれぞれ十通りあったと仮定すると、単純計算で千通りあり、その中から一番いい手を選べることになります。 最近の社会を見ていると、この三手読みができない人が増えてきているようです。親に対する反感や社会に対するうっぷんをはらすための事件が起きていますが、彼らは、一手目しか考えていないのでしょう。親や他人を殺したり事件を起こしても自分の不満を解消できるのは一瞬です。二手目の社会的制裁を受け、自分の人生を自分で破壊してしまったため、自分に有利な三手目はないのです。 最近の政策も同様の傾向があります。後期高齢者医療制度は、あまりにも国民の評判が悪かったので、長寿医療制度と名称を変更しました。終末期医療の診療報酬新設は、「早く死ねというのか」という批判が相次ぎ、廃止になりました。 社会保障費の削減や新臨床研修医制度により、医師不足が顕在化し医療崩壊が急速に進んでいます。医師の偏在が原因と言い続けていた厚生労働省は、ようやく医学部定員増と新臨床研修医制度の見直しを始めましたが、効果が表れるには最低十年はかかるでしょう。 三手目まで十分に検討して一手目を打たなかった(二手目さえ想像していなかった)ので、有効な三手目が打てないわけです。 (上毛新聞 2008年8月11掲載) |