視点 オピニオン21
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eラーニングプロデューサー 古谷 千里(吉井町)

【略歴】 北海道函館市出身。IT利用の英語教育が専門。国立大教授、米国コンテンツ制作会社ディレクターを経て、現在、英語学習ソフト開発に携わる。早稲田大非常勤講師。

衣食住言

◎思いを言葉にしよう

 「無口な人」による凶悪犯罪が続いている。「無口」と聞くと決まって想起するシーンがある。コミュニケーションのない家庭だ。外からは何事もないように見えるが、実は沈黙の底に不満と不安が渦巻いている。いつ爆発しても不思議ではない、重苦しい状況。そんな会話のない空間で生きることは、人間にとってさぞ苦しいに違いない。

 職場でも同じ。上司が部下に話しかけ、部下は上司の機嫌を損なわないよう、短い肯定の返事をする。「たまには本音でコメントを返したら?」という私の誘いに、「私はオフィスの家具ですから」と取り合わなかった事務員の言葉が忘れられない。その点、米国のオフィスは気楽なものだった。社長から派遣社員まで、ふだんはニックネームで呼びあい、ジョークを交わしあう。コミュニケーション上のストレスはほとんど感じなかった。ただし、各自に与えられた職責の重さと緊張感は格別で、間違った決断を下したりすれば、たちまちファイア(くび)が待っている。

 ホームステイを経験した人の多くは、「楽しかった。また行きたい!」と異口同音に言う。何が彼らを興奮させたのか。私の運営するサイト『ちさとの英語メール教室』のQ&Aには、「感謝の気持ちを英語で伝えたい」という依頼が、本人からも両親からも届く。そして、うれしかった最大の理由は、下手な英語を一生懸命聞いてくれたこと、家族のように受け入れてくれたことだと言っている。話せないにもかかわらず、よそ者にもかかわらず、コミュニティーの一員として処遇されたことに感謝しているのだ。

 ホームステイ先での一日は、「モーニング」から始まって、「よく眠れた?」「朝食は何を食べる?」「コーヒーは?」「ミルクは?」「砂糖を入れる?」などのやりとりが続く。生活が、言葉のキャッチボールで進行する。キャッチボールをすることによって、「あなたを大切に思っているよ」と伝えているのだ。

 日本人だって親切な国民として名高い。ただ日本人は、「この人はコーヒーに砂糖を入れる」と知ってしまえば、二度とたずねたりしない。文化の違いと言ってしまえばそれまでだが、私たちはもっと、気づかいを言葉で表す習慣を取り入れてもいいのではなかろうか。

 口頭で話すもよし、文字で書くもよし。要は、心の中の思いを言葉にして、双方向の会話をする。それが生きる上で大切だ。暮らしの基本を「衣食住」というが、これに漢字でコミュニケーションを加えたい。「衣食住言」ではどうだろう。携帯メールはコミュニケーションの輪を大きく広げた。だれもが物言えるネット社会は今、確実に進展している。もっと会話を!






(上毛新聞 2008年7月12日掲載)