視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
新島学園短大学長 大平 良治(安中市板鼻)

【略歴】 新島学園中学・高校、中央大法学部卒。県企画部長、保健福祉部長、県教育文化事業団理事長などを歴任。2005年4月から現職。

福祉コミュニティー

◎地域、行政の協働で

 最近発表された県内三つの児童相談所に寄せられた児童虐待の通報、相談件数は、過去最悪の六百十六件に達した。

 このことは今、県内のお父さん、お母さんが子育てに大きな悩みや不安を抱えていることの表れである。その背景や理由については、いろいろのことがいわれているが、家族と地域コミュニティーの大きく激しい変化によることが考えられる。核家族化や高齢者世帯の増加が急速に進み、家族が小規模化し単独世帯の増加が著しい。

 そのために、地域コミュニティーの連帯感と社会的機能が失われ、行政や専門サービスにますます依存せざるを得ない状況になっている。また、著しい少子化と高齢化により、子どもや子どものいる世帯が少数派となり子どもに対する周囲の意識も変化して、子育ては厳しい困難な状況に置かれている。

 幕末や明治の初めに日本にやって来た外国人は、日本人ほど子どもを慈しみ、かわいがって育てている国民はほかにないといっている。自分の子どもも他人の子どもも地域みんなで子育てをしていることに注目し感心している。

 子どもを育てるということはきわめて地域性の強い性質を持っている。育児は毎日繰り返される日常的、連続的なものであり、「血縁」より「地縁」が重要な役割を発揮する。

 今こそ、地域みんなで子育てを支援できるシステムをつくり上げていくべきである。新島学園短期大学では、地域に根ざした教育機関の一つとして地域のお母さん方の支援のために、「チャイルド広場」というセミナーを二〇〇六年度から開設している。子育て中の保護者の皆さんが集まって、子育ての体験の話し合いや子育て相談を受けるなど楽しく子どもを育てていくお手伝いをしている。

 セミナー開催中は、参加しているお母さん方の子どもを地域の高齢者の皆さんにボランティアとして協力をお願いし面倒をみてもらっている。「チャイルド広場」は地域コミュニティーの三世代交流の場にもなっている。三年間の実績が認められ、このほど日本生命財団から「児童・少年の健全育成助成団体」として助成を受けた。

 一九九〇年代以降、福祉改革をはじめとして児童福祉法の五十年ぶりの大改正、福祉基礎構造改革等福祉制度の大改革が行われた。そのコンセプトは福祉の分権化であり地域化であった。

 今、人口減少社会に突入し本格的な少子高齢社会が到来している中で、福祉制度改革を真に実現し、地域コミュニティーを子育て支援を中心として新しい公共の場としていくためには、地域住民と行政とのパートナーシップによる協働に基づく「福祉コミュニティー」の構築が強く求められている。






(上毛新聞 2008年7月8日掲載)