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◎次の世代に渡したい 今年、主要国首脳会議の議長国となっている日本は、北海道・洞爺湖でサミットを開催する。この期間中、日本郵便では「EMS&ゆうパック用リユース可能な環境配慮型輸送梱包(こんぽう)箱」なるものを提供する。 この箱は書類やパソコン等の八カ国間の運搬用に、二種類を千個限定で作製された。従来の段ボールとは違い、何と百回も繰り返し使える機能が工夫されている。また、一箱につき日本郵政グループが設けるJPの森への苗木一本の植樹権が付帯されているという。そしてさらなる思いを込めようと箱の周りに私のイラストも施すことになった。 これらの付加価値が使い捨て時代への問題提起となり、ひいては多様な価値観をもたらすきっかけとなればと期待は膨らむ。しかし、どんな絵をかけばいいだろう。実際に洞爺湖の空気に触れたいと思ったが、その時間はなかった。いつものように、イメージへの扉を叩(たた)き私の中の「もう一人の私」を呼び出してみようか。 私は少しの間、ふるさとである館林市の「つつじが岡公園」の絵をスカーフに収めた時を思い出していた。祖父と歩いたその場所の、土の匂(にお)いが甦(よみがえ)り未来永劫(えいごう)変わらぬ姿でいつでもそこで待っていてほしいと願ったあの感覚。 しばらくして今度は私の目の前に、スペインの建築家ガウディ設計のサグラダ・ファミリアが現れた。バルセロナの街なかで彼の死後八十年余り経た今も建設が続けられている教会だ。 ふと私は東京の街を思った。昔ながらの店がまたチェーン店の看板に塗り替えられ、遊ばせておく土地はないとばかりに僅(わず)かな空間もコインパーキングに移り行く。人々はどの街角にも特徴のないはやりの風景が広がることに疑問を持たなくなり、価値観までもが右に倣えか、と錯覚しそうになる。 人生を、おざなりに個人の欲望の充足に費やしたり、幸福の基盤が経済の豊かさだけにあると思われがちな世の中が心の貧困を生んではいないだろうか? 小さな苗木に水をやる今日は、いつの日か大木に成長する未来を見据える一日となりえる。年月を越えて遺(のこ)され守られるべきものを保護し、せめて将来を担う子どもたちのためにより良い環境をつくることに喜びを見いだしたい。 私はそんな願いを込めて、一つ目の箱に湖畔で釣りをし森に憩う人々を、もう一つには世界の人々が手を繋(つな)ぎ次の世代に渡す、見えないバトンを描いた。そして構図を変えたり色違いにし、どちらも箱の二面にイラストを埋めていった。 洞爺湖に行ったきり帰ってこない「もう一人の私」は、自然の凄(すご)さに圧倒されたのか今回は言葉すくなで、代わりにさまざまな景色を見せてくれた。このまま交信を楽しむことにしようと思う。 (上毛新聞 2008年6月22日掲載) |