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動物写真家 小原 玲(名古屋市千種区)

【略歴】 前橋高、茨城大卒。動物写真家としてアザラシ、シロクマ、マナティー、ホタルの写真を発表。カナダの流氷で19年の取材歴があり、地球温暖化の目撃者である。

温暖化防止の決め手

◎科学技術より良心だ

 今年の北海道は流氷が多く接岸したため、流氷が多い年として記憶されそうだが、今年北海道で生まれたアザラシの赤ちゃんたちは、ほとんど壊滅的な被害を受けている。その現場を私は撮影してきた。

 四月中旬のわずか二、三日でオホーツク海の流氷がほとんど消えるかのように解けてしまったため、生後二週間ほどでとどまる流氷がなくなってしまったのだ。北に残る大きな氷に辿(たど)り着くには、その二、三日で百五十キロぐらいを泳がないといけない。まだ自力で餌をとることもできない赤ちゃんたちにそれは不可能だ。

 最後の流氷にしがみつくようにしていた赤ちゃんたちを撮影してきたが、その氷の周りにはシャチがウロウロしていた。アザラシが流氷に赤ちゃんを産むのは天敵のシャチから守るためなのだが、流氷はもはやその役目を果たすことができない。すでに日本の沿岸でも地球温暖化による大型哺乳(ほにゅう)類の被害は発生しているのだ。

 地球温暖化による被害は、何も高温で暑くて体が溶け出しそうになっていくわけではない。それよりも先に異常気象という形で現れる。アザラシの赤ちゃんたちの流氷も、過去に比べて非常に大型の低気圧が来ることによって、氷がボロボロになることから解けだし始めるのだ。

 その光景を間近で見てきた私には、ミャンマーのサイクロンがまったく同じものに思えてしかたがない。アザラシの生息域の南限の北海道で被害が出て、北半球の人間の生息域の南限近くで同様に、大型の低気圧によって被害が出る。

 地球温暖化はすでに人間にも被害を出している。それなのに私たちはまだ科学技術で地球温暖化が何とか防げるぐらいに、過信しているのではないだろうか。すでにこの五年間で温暖化の進行がより加速していることは、科学技術が温暖化対策に不十分なことを科学的に証明しているのではないか。

 私は科学技術が地球温暖化を防ぐとは思っていない。そもそも科学技術は人間の歴史の中で、貧困も飢餓も差別も解決してきたことがない。それを報道写真家時代に現場で目の当たりにしてきた。

 科学は人間の生活を便利にしてきたが、その産物が地球温暖化である。私たちには、今よりは「便利ではないが幸せな未来」をつくることが地球温暖化対策で求められている。便利な生活のまま温暖化対策をしようと考えるから後手後手に回ってしまうのだと思う。

 それでは何が防ぐのだろうか。それは人間の良心であろう。人間の良心は、貧困や飢餓や差別を、何度か部分的ではあるが解決してきている。






(上毛新聞 2008年6月19日掲載)