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司法書士 澤浦 健(伊勢崎市馬見塚町)

【略歴】 明治大法学部卒。家事・民事調停委員、人権擁護委員(県連男女共同参画社会推進委員会委員長)、伊勢崎ジュニアオーケストラ後援会会長などを務める。氣きの健康学院専門課程在学中。

財産処分

◎遺言を残しておこう

 わが国では、自分の財産は自分の意思で自由に処分することができる。死後の財産処分は生前に遺言という方式で決めておくと、それに沿って進められる。遺言しておくと次のようなメリットがある。被相続人は甲、相続人は配偶者の乙、子供A・Bの三人である。ほかAの債権者Xが存在する場合を例として説明する。

 (1)乙が遺産を取得したときは遺言によって乙だけで登記できる。A・Bとの間の遺産分割協議書は不要で、A・Bの印鑑証明書、実印押印なども必要としない(2)Aの債権者Xが代位して、甲の相続人全員の法定相続分(乙は四分の二、A・Bは各四分の一)を登記し、Aの法定相続分に対して差し押さえをすることができるが、乙やBだけが相続する旨の遺言があれば遺言のほうが優先するので、Xの差し押さえは効力のないものとされ、遺言で取得した相続人の所有権が確保できる(3)甲が過半数の株式を所有して会社経営し、将来Aを後継者としたい場合には、全株式をAに相続させる旨の遺言をしておけば支障なくAに会社経営を引き継げる(4)子供がいない夫婦の一方が死亡すると、死亡者の兄弟姉妹も相続人として参加できる。それを防ぐため夫は妻のために、妻は夫のために「全財産を相続させる」旨の遺言をしておくと、兄弟姉妹は参加することができなくなる(5)A・Bの配偶者や特別に世話になった他人など相続権のない人や団体に遺産を譲ることができる。

 この遺言の方式としては自筆証書遺言と公正証書遺言が一般的であり、いずれも作成方法が法律で定められている。公正証書遺言は公証人が作成するため、要件不備による無効の心配がなく、その原本が公証人役場に保管してあるので、遺言の正本や謄本が紛失しても心配がない。遺言の存在を明確にしておくための家庭裁判所の検認手続きも不要なので、相続登記等の手続きがすぐできる。(2)の債権者Xの行為は家庭裁判所で検認手続きをしている間に行われる可能性もあるので、この検認手続きが不要の点でも公正証書遺言の手続きが優れている。

 以上、遺言のメリットを述べたが、(4)を除くと遺留分制度に直面させられる場合も多く、反撃されると弱い面もあるので、メリットも半減することを覚悟しておく必要がある。一部の者に対しての過度の遺産相続が他の相続人の利益を著しく侵害する場合には、他の相続人は遺留分減殺請求権を行使して対抗してくるので、取得した利益の一部を返還させられる場合も少なくないからである。

 なお、被相続人は生前の財産処分は自由であるのに、死後はその意思にかかわりなく遺留分制度によって制約されることに異論を唱える向きもある。






(上毛新聞 2008年6月3日掲載)