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◎鳥の目と虫の目で確立 近年、地域学や地元学が提唱され、地域住民による学習活動が活発に行われている。 私は以前から、安中の地域を研究対象とする安中学とも呼ぶべき学問分野と、それを研究する中央の大学教授等を中心とする安中学者ともいうべき人たちが存在していると考えている。 この人たちには、思想史や経済学、歴史学や社会学等いろいろな学問分野を専門領域とする研究者がいる。安中を中心とする地域は、日本の近代社会成立と展開の時代において、プロテスタントキリスト教の精神と養蚕業、製糸業とが結びついて発展していった全国でも極めて特色のある地域であった、ということに関心と問題意識を持って研究している人たちである。 その中でも東京大教授や東京女子大学長を歴任され、経済学や労働問題の研究で多くの業績を残された隅谷三喜男先生は、安中に何度も足を運ばれ、安中の地域を深く研究され、多くの輝かしい成果を発表されている。 隅谷先生は明治時代の前半、安中の地域には新しい人間(人格)が形成され出現した、といっている。「見も知らぬ他人のために涙を流して祈り、赤の他人のために心血を注ぐ人が現れたのである」と書いている。 また、国際基督教大の学長をされ、群馬県史の編さんにも尽力された武田清子先生は、プロテスタントキリスト教の信仰を持った人たちによって、安中のコミュニティーは大きく変質を遂げた、といっている。 今年は、新島襄により一八七八(明治十一)年、三十人の男女が洗礼を受け安中教会がつくられてから百三十年という記念すべき年である。この三月三十日には、記念礼拝と記念講演が行われた。 安中教会はつねに地域コミュニティーと深くかかわり合い、それぞれの時代において、その課題の解決のために取り組んだ歴史と実績を持っている。特に廃娼運動は、湯浅治郎をはじめとする安中教会の会員の努力と実践の成果であり、全国に誇ることのできるものである。 私が安中学者と呼んでいる人たちは、中央の視点から、いわば鳥の目で安中の地域に関心と問題意識を持って研究した人たちである。 今、分権型社会の創造と地域再生が大きな課題といわれ、それぞれの地域が歴史と伝統と文化を大切にし、個性と独自性と特色を発揮していくことが求められている。このような時代の中で、安中に住んでいる人たちが、いわば虫の目で安中の地域をもう一度見直し、学び直すことによって地域に根ざした新しい安中学を確立していくことが重要であると考えている。 (上毛新聞 2008年5月18日掲載) |