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元藤岡市立東中学校長 除村 晃一(藤岡市下大塚)

【略歴】 群馬大卒。理科の教諭として教壇に立ったほか、県教委で管理主事を務めるなど主に人事職を担当。西部教育事務所長や藤岡市校長会長を歴任した。

心の教育

◎生きる力が培われる

 人生は一生修業であり、自己研鑽(けんさん)の連続である。また、学校教育は一にも二にも豊かな心の育成であり、これは、現代の教育課題の「生きる力」そのものである。そして、生きる力とは子ども自身が培うものである。いまや、人としての心や生き方を育(はぐく)む教育の充実は質的にも、量的にも現代の最も重要な課題である。学校は道徳の時間の指導の充実はもちろんのこと、全教育活動の中で意図的に力強くこれを推進していかなければならない。

 人の行動を支え、生きるエネルギーを全身に送るのは心であり、心の教育は人にとっての“ポンプ”を鍛える教育である。樹木に例えれば根っこを育む教育である。

 現代人は物を重視し、便利さや快適さを追求し続けてきた結果、大切なものを失った。いまや心の荒廃は認めざるを得ない。そして、子どもの心の危機は教育の危機であり、現代は“心の不毛時代”かもしれない。物が豊か過ぎて、我慢する必要もなく、“不足が不足している”状態である。

 しかし、豊かな心は、豊かな体験を通して育つものである。例えば、自らの意志で行動するときの心の“輝き”や相手を思いやるときの心の“温(ぬく)もり”などを体感させることである。また、「心は形を求め、形は心を正す」ものであり、姿勢や態度はその人の心そのものである。自己を見つめさせ、生き方を考えさせることであり、自分を大切にさせることである。心を育て、鍛えれば、学ぶ意欲が高まり、成績は向上するものである。

 さらに、恥の文化もなくなった。“お天道(てんと)様が見ている”などの、人として恥じることのない生き方を忘れている者もいる。最近報道された事件は唖然(あぜん)とする。建物への落書きや花を切り取って捨てるなどの行為はいたずらで済まされることではない。残念ながら、倫理感の欠如はあちこちで見られ、企業のモラルの低下も依然としてなくならない。

 人生とは駅伝と同じであり、今日を走り、明日の自分にタスキを渡すのである。そのタスキは目には見えない。人生において大切なものはそうした目には見えないものであると考える。そして、「心豊か」とは相手の身になって行動することであり、相手に心をつかうことである。また、人を動かすのは心であり、心を動かすのは温かい言葉である。さらに、「人は人なか、木は木なか」である。

 学び、成長し、目標・目的に向かって歩き続けることが生きる尊さであり、よりよく生きようとする姿勢そのものが人としてのよさであると考える。人としての生き方の基本は「心は水の如(ごと)く、生き方は竹の如く」であると思う。






(上毛新聞 2008年5月16日掲載)