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◎非常に特異な生理機能 蚕の飼料は桑葉であることは誰でも承知のことである。分類学上、クワ科、クワ属の高木性の植物である。クワ科は双子葉植物、離弁花類に属し、イラクサ科、ニレ科などとともに、イラクサ目に入る。クワ科にはパンノキ、カジノキ、アサ、クワクサ、イチジク、カラハナソウ、クワイタビの各属がある。これらはクワの近縁植物であるためか、蚕がわずかながら食べることが実験で分かっている。 クワ属はアラビア半島、中国、朝鮮半島、タイ、サハリン、ヒマラヤ、八丈島、三宅島、カシミール、イラン、インドネシア、西アフリカ、北米、中米、南米などに分布している。一九七七年十月、チリ・サンティアゴのワイン博物館の前庭に高木のクワが栽植されているのを見て、「こんな所にクワが」と古里の風景を思い出し、しばし先輩の団長と眺めてきた。 わが国に栽培されていたのはヤマグワ系、カラヤマグワ系、ロソウ系であり、江戸時代から栽培されていた品種もかなりある。戦後は高収量の品種が栽培されるようになった。 蚕がクワを食べてどんな栄養分をとっているのか、食べる量はどのくらいか、が実験的に調べられている。食べた葉の量から、排出された糞(ふん)の量を引き、飼育に与えた総量で割ると「食下率」が算出される。五齢期で桑葉の約36%が、食べて数時間すると糞となって排出される。桑葉の乾物の35―40%は炭水化物、25%がタンパク質、3―6%が脂質、その他各種ビタミン、無機物、水分である。 人も他の動物もそうであるが、食べた食物(餌)のうち、大部分が固形物の糞として体外へ排泄(はいせつ)されてしまう。一体、栄養分はどのような状態で体の成長発育に役立っているのであろうか。まして蚕の絹糸腺は後部糸腺でフィブロイン、中部糸腺でセリシンという繊維タンパク質が生合成されることが知られており、幼虫の五齢期中の短い期間で千五百メートルもある、繭一個分の絹糸を作り出す。一秒間に一センチ足らずの吐糸速度で繊維化するのは驚きだ。だが、その秘密(過程)が次第に分かってきているようだ。 蚕は他の昆虫と違い、非常に特異な生理機能を有する動物であると思う。戦時中、米国ではパラシュートやストッキングに最適なシルクの代用としてナイロンの合成に成功した。しかし、天然の蚕の出すシルクに勝るものはないのである。神代の時代から「お蚕さま」と尊ばれてきたゆえんが理解できる。 (上毛新聞 2008年5月14日掲載) |