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◎何かと出合い夢広がる 前橋は美しい街です。赤城、榛名の山々に守られ、利根川、広瀬川は悠々と流れ、敷島公園の松の緑が心に染みます。そんな子供のころから大好きな街なのに何故(なぜ)か美術館がないのです。それが不思議でなりませんでした。 私の育った書店には、つい最近まで大きなギャラリーがありました。そこでは素晴らしい作家たちの個展や県内の小学生の絵画展などを企画し、ある意味では街なかの美術館の役割をしていました。二○○五年の春、その書店からギャラリーも消え、思ってもいなかったことですが、私も居場所がなくなりました。その時思ったのです。「これからどうしよう?」「そうだ! 前橋に美術館を創(つく)ろう!」と。 元来、私は単純な人間なのでしょう。そう思ったら、もう止まりません。頭を切り替え、すぐに動き始めました。知事さん、市長さん…。話を聞いてもらいたい方には皆、突撃(?)のように会ってきました。そんな中で図らずもギャラリーを始めることになったのです。何故かというと、ただ言っているだけではオオカミ少年になってしまうと思ったからです。まず、自分が小さな灯をともし続けることが、説得力になるのではないかと。たぶん、しつこいタイプなのでしょう。 前橋に美術館を創ることは昔から話に出たり消えたりしてきたそうです。でも、実現しなかった。それは、難しく考えすぎたり、完璧(かんぺき)を求めすぎたりしたからじゃないかと思ったのです。石橋を叩(たた)きすぎて壊したり、疲れて叩くのをやめたりの繰り返しだったのではないかと。石橋なんか渡らず、飛び越してはどうでしょう。川に落ちたって、擦り傷だらけになったって、少しは前に行くはずです。 そこでまず考えたのが、既存の建物を使って始めることでした。例えば、元県庁舎の昭和庁舎を使い、県と市が協力して、それぞれの収蔵品の常設展示をするのです。目の前の群馬会館では映像、舞台、音楽、講演を行い、県庁と市役所に囲まれた二つの美しい建物にさまざまな文化が集まるのです。なにも一カ所に集約しなくても、他の煉瓦(れんが)倉庫は工芸館にするとか、いくつかを回遊できるのも楽しいではないですか。 前橋には個性的なギャラリーもたくさんあります。街を廻(まわ)って芸術を楽しめたら素敵(すてき)です。難しく考えず、まず始めてしまったら、先が開けてくるのではないでしょうか。動きながら考える。乱暴ですが、それが私の思いかたです。 そんな街で子供たちにいろいろなものと出合ってほしい。その時、興味がなくても、きっと何かが心に残るはず。こんな風に、夢は広がってゆくのです。 (上毛新聞 2008年5月10日掲載) |