視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
文筆家 岡田 幸夫(桐生市広沢町)

【略歴】 東北大工学部を経て東京三洋電機に入社。2005年に退社、身近な体験を通して、健康、環境、社会、歴史などを考える「晴耕執筆」生活を実践している。

味噌づくり

◎非効率を楽しむ遊び

 味噌(みそ)づくりを長い間続けているが、味噌はスローフード食品の代表である。主原料である大豆は晩春に種を蒔(まき)、十一月に収穫する。翌年の一月が寒仕込みの季節である。仕込んだ味噌は冷暗所に保管し、一年間は寝かせる。もっとも美味(おい)しくなるのが、二度夏を越した秋からである。味噌は三種類の素材からなるが、材料にこだわり本物を選ぶことが大切である。私の場合、大豆は自家製と知り合いの農家(前橋市粕川町の深沢さんという老夫婦)が丹精を込めてつくったもの、麹(こうじ)はやはり前橋市内の創業百年を超える老舗の麹屋さんから入手している。麹は生き物である。この店のものはブレンドされた麹菌を使ったまぎれのない一級品で、文字通り白い米に花が咲いたようで品質のブレというものがまったくない。塩は市販の天然塩を使う。

 作業当日の朝、麹を仕入れる。塊をほぐしながらほどよく塩と混ぜる。ひと晩水に浸した大豆を、竈(かまど)にセットした釜で茹(ゆ)でる。一回三キロの大豆で九十分ほど時間がかかる。この竈の火燃しがなかなかの根気と技術を要する作業である。やわらかくなった大豆を潰(つぶ)してペースト状にする。道具は古い大型の餅(もち)つき器を使う。これに塩と混ぜた麹を加えて、大豆の粒がなくなるまでよく攪拌(かくはん)する。この味噌の素(もと)を漬物容器に詰めていく。

 味噌は熟成すると、独特の芳醇(ほうじゅん)な香りとうま味がでる。毎日の味噌汁ばかりでなく、魚、肉、野菜料理などあらゆるものに使える。味の原点みたいなものが実感できる。伝統料理の代表であるケンチン汁や豚汁などにもよく合う。この食材はサトイモ(ジャガイモ)、大根、ニンジン、豚肉、こんにゃく、豆腐、シイタケなど、すべて地元群馬で調達できるものばかりである。それぞれの素材の持ち味をうまく引き出してまとめ、バランスのとれた料理に仕上げてくれる。こうした食材を中心にした、堅実で「足るを知る」食生活は健康的であり、ひいては日本の食料自給率向上に寄与することは論を待たない。

 私はこの大豆の釜焚(た)き作業を、仲間のメンバーとともに今冬六十回近く行った。味噌の重量にして六百キログラムほどになる。大量の薪(まき)は近くの緑地公園の倒木、植木剪定(せんてい)の枝、大工さんから融通してもらう木端などで調達している。こうした不用な木材も貴重なエネルギー源だ。

 味噌づくりとは身近なところで、自らの手で行うささやかな実践である。効率や経済性でみれば合いそうにないが、その効用は大きい。手間や時間のかかること、効率的でないこと、そうしたことを楽しみながら行う遊び心を大切にしたいと思っている。






(上毛新聞 2008年5月9日掲載)