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渋川総合病院長 横江 隆夫(前橋市上小出町)

【略歴】 東京都出身。群馬大医学部卒。同大医学部附属病院助教授(救急部)などを経て、2002年から国立渋川病院長、03年から現職。専門は外科。

AED

◎心肺蘇生法との連携を

 昨年、渋川市の中学校で女子生徒が運動後に心肺停止となりましたが、現場にいた教師の迅速な蘇生(そせい)処置、胸骨圧迫(心マッサージ)とAED(自動体外式除細動器)の使用により心拍は再開しました。その後、搬送された病院で意識が回復し、数日後に退院、後遺症もなく社会復帰しました。

 数年前に運動後に倒れた小学生が救急救命士の使用したAEDで社会復帰したことから、渋川市は、県内の市町村に先駆けて全小中学校にAEDを配備しました。その効果がすぐに表れたわけです。同市では市庁舎や公民館などの公共施設に既に百四十台のAEDを設置しており、さらに設置個所を増やす計画です。

 また、市の補助により伊香保の五十二旅館すべてに設置されることも決まりました。このようなAEDの普及により、多くの人の命が助かる可能性が増加しました。

 しかし、AEDは魔法の器械ではありません。

 心肺停止のうち、心室細動(心臓のけいれん状態)と心室頻拍(心室の異常興奮による頻拍)の状態にAEDは適応します。心静止(心臓が全く動いていない状態)や電動収縮解離(心臓は収縮しているが、出血などで有効な心拍出量がない状態)では作動しませんので、この場合は救急車が来るまでCPR(心肺蘇生法)を続ける必要があります。

 心肺停止状態になってから蘇生処置開始が一分遅れるごとに、蘇生率は約10%低下していくといわれています。救急車が現場に到着するまで平均六、七分かかりますが、この間ただ待っているだけでは蘇生率は著しく低下しますので、現場に居合わせた人によるCPRが重要になります。

 CPRはガイドライン2005で人工呼吸と胸骨圧迫の回数が二対三十に変わりました。胸骨圧迫の中断時間をなるべく少なくすること、また人工呼吸が行えなければ胸骨圧迫だけでもよいとされ、絶え間ない胸骨圧迫の重要性が強調されています。

 渋川市では、消防本部や当院診療部長が中心となり、市職員などに救命講習会を行っています。今までに四千四百六十人が受講しました。今後三年間で九千八百人の受講を計画しています。

 AEDは、迅速に正しいCPRが行われて初めて、その力を発揮するものです。愛する家族に万が一のことがあった時のためにも、また、目の前で倒れた人を一人でも多く救えるように、救命講習を受講しましょう。






(上毛新聞 2008年4月23日掲載)