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県立ぐんま天文台観測普及研究員 浜根 寿彦(高山村中山)

【略歴】 東京都杉並区出身。1997年から県職員。県立ぐんま天文台の発足準備に携わり、99年の開館時から現職。彗すい星せいの観測的研究など惑星科学が専門。

豊かな星空

◎観光のため活かしたい

 夜の地球を人工衛星から撮った画像がある。夜の世界地図だ。際立って明るい地域が三つある。北米、ヨーロッパ、そして日本。中でも日本は全体に明るく、特に関東平野が目立つ。群馬はその北端、首都圏の都市光が薄れる際にある。

 光溢(あふ)れる首都圏にありながら、都会では忘れられた月影に町中でも出合えるのが群馬である。町を離れれば、満天の星空や天の川にも巡り合える。ぐんま天文台がある高山村もそうした地域の一つである。

 宇宙からの光は微弱である。星々をかき消す人工光が空に向くことの少ない高山村は、静かな奥深い星空が日常の景色になっている。ところが、関東平野を望む天文台に上がると、都市上空に星が少ないことが一目瞭然(りょうぜん)である。人の手にかかると、星々はいとも簡単にかき消されてしまうのだ。首都圏の明るい夜空を南に、輝く星空を北に望む天文台は、人間と自然とのかかわりを考えさせられる場にもなっている。

 さて、自然豊かな群馬では、河畔を吹き渡る風、四季折々の表情を見せてくれる森林、懐深い山々、ゆったりと立ち上る湯煙など、すべてが大きく広がる空の下にある。群馬で自然の豊かさが感じられる要因の一つに、この空があるに違いないと思う。日が暮れれば、そこには静かに輝く星々が現れ、安らぎの夜を彩る。

 この冬、榛名湖にイルミネーションを見に行った。湖畔に映えるそれはたいへん美しかった。発光ダイオードの明かりはきらびやかではあるが、少し離れるとすっと暗闇にとけ込んでいく。見上げると夜空に星々がそっと輝いていた。イルミネーションと星空の両立を目の当たりにした瞬間、人工光と星空は相いれないものではなく、相乗効果を生み出すのだと実感した。

 いま都会では、プラネタリウムが癒やしの空間として静かなブームを呼んでいるという。心の隅々まで照らし出すかのようなまばゆい明かりから逃れて、静かな暗い空間に人々は心の安らぎを求めているのかもしれない。

 群馬には静かな夜と本物の星空がある。県にはこの星空を後世に伝えようという「ぐんま星空憲章」があり、高山村には美しい星空と光環境を維持しようという「光環境条例」がある。両者の精神を生かして、生活に必要な照明を確保しつつ人工光と星空との共存を図り、首都圏では貴重な星空を、群馬ならではの観光資源として活(い)かしてみてはどうだろう。

 そのためには、不必要な光が空に流れ出す「光もれ」を防ぐことが肝心だ。だが、光もれの少ない照明器具がなかなか見つからないという。星空と共存できる照明器具が群馬で開発され、使われ、人々が星空に心を解き放ち安らぐ時代が来ないものかと夢見るこのごろである。






(上毛新聞 2008年4月21日掲載)