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◎歩いてみたくなる場所 「それかい? それは今朝掘ってきた竹の子だかんね。んまいよぉっ! 二本? じゃあこれはおまけ(と言ってもう一本入れる)。ぬかも一緒に入れといたかんね。コレを入れると、ぬかのデンプンシツでユデジルにノウドがついて、アクがキュウチャクされやすくなるんだ。ね、えらい勉強になるでしょ。まいどっ。…おっ、前方から浮かない顔の青年が一人。昼間から暗いねー。どしたんだ鶴坊! あー、さてはまた振られたんだんべ?」 「そんなんじゃないよ」 「じゃあなんだ? わかった! なんだっけ、路地裏活性化ナントカって、うまくいってねぇのか? 図星? なーに心配すんな。誰も期待なんかしちゃいなかんべーに、なっ。よっ、揉(も)んで味出せ干し大根、揉まれて味出せ人気者!」 「あんな哀愁漂う路地、この辺りにはもうどこにもないのに。おじさんはいいね、哀愁どころか、いつだって脳味噌(みそ)が澄みきってる」 「ばか言うな! オレだって昔はさんざっぱらやったんだよ。駅舎保存運動…大谷石の倉庫でダンスパーティーの会…、全部うまくいってないけど。だからお前の気持ちもわかるんだがな。結局困らないんだよ、路地一つどうだろうが」 「でも、このままにしてたら、そのうちなくなっちゃうんじゃないかって」 「そうだなぁ、あそこは昔すごかったからなぁ。鶴坊なんかは知らねぇだんべけど、肩がぶつかるくれぇ人が歩いてたんだから。夕方んなると、チン、トン、シャン、なんて音が聞こえてきたりしてね…。お前の言うとおりだんべな。『歩くことを省くと文明に辿(たど)り着き、歩くことを怠ると文化は滅びる』とは、よく言ったもんだよ」 「どこの国の諺(ことわざ)?」 「オリジナルだよ」 「なんだよそれ!」 「そう興奮すんなって。しかし、オレもここまでつまんねぇ街になるとは思わなかった。歩きたい場所を次々に壊してんだから当たり前か。まぁいいや、オレには関係ねぇ。オレにはこの竹の子をどうやって今日中に売りさばくかの方が大事だ…。あれっ、なんだよおい、おーか、いじけるなよぉ。そうだ! ちょっと待ってろよ(と言って一枚のチラシを取り出す)。これ、伊勢崎の知り合いが持ってきたんだけど、えー、なんでも今月の二十七日に伊勢崎の路地裏でお祭りがあるんだと。これ見に行ってみたらどうだ? なっ。なんかヒントがあるかもしれねぇし。えーっと、いせさきアーティストフェスタ、って書いてある。なになに? 昨年は来場者が、二千人? こんな路地に二千人? なっから来たね、しかし。これじゃあきっと竹の子を洗うようだったんべな」 「それを言うなら、芋の子を洗う、でしょ!」 (上毛新聞 2008年4月16日掲載) |