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◎土からのものづくり 標高七百メートルのワイナリーのブドウ畑は先月上旬、三十センチの積雪がありましたが、中旬の数日であっという間に消え、土肌が現れてきました。畑作業も動き出しました。昨年収穫のブドウはワインとなって樽(たる)で熟成中。世界的にも、ワイン産地の昨年のブドウ栽培は、天候と病気の影響により減産、減収のようです。ワイナリー八年目、今年も天候への気遣いが始まりました。 ワイン用ブドウの木は百年ものとされています。樹齢を人間にたとえていえば「十年代は勉強中、二十―三十年代は働き盛り、四十―五十年代で分別がつき、六十―八十年代は独特な味わいが醸し出される古木となる」といったことをフランスのオーナーから聞かされました。 近年、カリフォルニアのワイン造りでは、ブドウが育ちやすい環境を整備することに労力が注ぎ込まれています。環境整備とは、土地の特質、ブドウの仕立て方(樹間、畝間、主幹の高さ)、剪定(せんてい)方法、肥料のやり方、ブドウクローンなどに関するもので、それぞれブドウの品種別に見極めながら行っています。ワイン造りの一番の決め手はブドウ作りでした。最初は醸造技術が九割だと思っていましたが、ワイン造りに欠かせないことの九割は実はブドウ作り、育て方でした。農業そのものです。 土から生き物を作るということは素晴らしいと同時にとてもデリケートで、また厳しい作業が伴います。サラリーマン時代に農家のおばさんから教えられたことが今日、思い浮かびます。「ジャガイモは足音で大きく育つ」と―。昨日はばあちゃんが草むしりに、今日は親父(おやじ)さんが土寄せに来てくれたとわかっていて、ジャガイモは頑張って大きくなるのだと。 ドイツのワインオーナーにワイン造りの秘けつを聞いたとき、「よいブドウを育てることに尽きる。ブドウは太陽が好きで、日陰は嫌いだが、一つだけ好きな日陰がある。それは農夫の影だ」と教えられました。国は違っても土でものづくりに生きている者同士、思っていることは同じです。ワイン造りに携わる私たちがよく使う「シェア」という言葉があります。単にワインだけではなく貴重な時間を分かち合おう、共有しようという意味で使っています。 二〇〇四年に初収穫したシャルドネは、香りが良く、柔らかい印象でした。翌年シャルドネは、よりしっかりと酸がのり、バランスの良いものに仕上がりました。〇六年収穫のシャルドネはまだ瓶熟。どんな顔を出すことか。 地域ブランドの始まりです。地域の特性を生かし、ストーリー性を持たせ、消費者に感動や新鮮さを与えられる生産者になれるかどうか。厳しさも楽しさもこの先あり…です。 (上毛新聞 2008年4月15日掲載) |